法のくすり箱


Q、借家が震災で損傷を受け、役所の評価では一部損壊とのことです。修理したら直ると思うのですが、家主は修理できないので立ち退くようにと強く迫っています。一部損壊でも借家関係が終了することがあるのでしょうか?また家主が修理に応じない場合にはどうすればよいでしょうか?

A、建物が損傷しても「滅失」の程度に至らない場合には、その建物に関する借家権は存続します。半壊や一部損壊の場合、どの程度の損傷であれば「滅失」となるのかは微妙な問題です。一部の損壊にとどまり倒壊の危険は少なく修復が可能であれば、通常滅失にはあたりません。ただし、修復が可能だとしても、余りに莫大な費用を要する場合には、例外的に滅失と判断される場合もあり得ます。
 このように滅失にあたるかどうかは借家関係の継続を左右することになります。ですから家主から(できれば信頼のおける専門家をまじえて)修復の可能性や修繕費用等についてくわしい説明を求め、明渡すか、修繕を求めるか、費用負担をどうするかなどについて家主とよく話し合うことです。
 その上で、もし壊すしかないとの結論になれば、賃貸借契約は終了したことになり、あなたは立ち退かざるを得ません(そのときの注意事項は法のくすり箱「借家が全壊 敷金を受け取れば優先入居はダメか?」をご覧ください)。
 修理ですむということならば賃貸借契約は存続していることになり、家主は修繕の義務を負います。家主が勝手に建物を取り壊して建て替えることはできません。逆に借家人は家主の修繕を拒むことができません(民法606条)。借家人は、家主から修繕のために一時期明渡しを求められたときは、その求めに応じる必要があります。
 さて、この修繕を家主が放置して、いくら申し入れても修理してもらえないようならば、借家人の負担で必要最小限の修理をしてその費用を家賃と相殺することもできます。この際には、家主に修繕に必要な箇所と程度とをくわしく通知し、行おうとする工事の内容・費用の見積額などを通知しておくことです。そして修理代金について借家人が立て替えるばあいには、代金を家賃と相殺する旨を通知しておく方がよいでしょう。
 また、家主が修理しない理由が、家主自身が被災者であったりして資力がないという場合も考えられます。そのような場合には、当方で修理するから家賃から修理代として月々いくらか一定期間差引く等々、具体的に話し合ってみて下さい。なお、全壊・半壊の判定があり、修理(公的機関による長期低利の融資制度がある)に200万円以上を要した場合には、30万円の義援金が交付されています。役所に問い合わせてみてはいかがでしょう。
 こうした震災に伴う紛争で当事者が解決できなければ、裁判所で専門家をまじえて判定してもらうこともできますし、調停手続きならば裁判所へ納める手数料は免除されています(くわしくは「罹災都市法」の解説参照)。

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