法のくすり箱
Q、借家が全壊しました。敷金は返してもらえるでしょうか?敷金を受け取れば、このたびの特別法(罹災都市借地借家臨時処理法)の適用がなく、もう住めなくなるとの話がありますが、大丈夫でしょうか?
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- A、地震で借家が滅失した時点で、あなたと家主との賃貸借契約は消滅します。家主があなたに家屋を賃貸する義務が履行不能となるからです。したがって賃貸借の終了に伴い、借家人は敷金の返還を請求することができます。契約の中には、地震のように不可抗力にって建物が滅失したときには敷金を返さないという特約(地震条項)がおかれている場合がありますが、「効力なし」とするのが判例です(大阪地裁昭和52年11月29日)。
それでは、敷金の全額の返還を請求できるでしょうか。敷金または保証金については、差入れ敷金の2〜3割を控除して残りを返還する「敷引き」の特約があるのが普通です。この「敷引き」については、その意味(賃借権そのものの対価、賃料の一部の前払い、損料、償却費の一時払い等)・税務上の処理(近時は敷引きを受領時点で収入と認定)・判例(敷引きを認めるもの、残存賃貸期間に対応する分の敷引額の割戻しを認めるもの等)などで考え方が分かれています。借家期間の長短も実質上は考慮すべき要素となりましょう。しかし、敷引きは、次に入居する人のための修理費用にあてられることが多く、今回の地震による滅失のようなケースでは、後のトラブルを避けるためにも全額の返還を原則とすべきものと考えます。なお、敷引きの特約のない場合には、当然、全額の返還を請求できます。また、もし滞納家賃などがあれば敷金から差引かれることは当然です。
ちなみに1月分の前払い家賃ですが、全壊した1月17日以降の分については日割りで返還してもらうように請求できます。
さて、敷金を返してもらうと借家契約を合意によって解除したと認定される可能性があります(法務省民事局罹災都市法適用説明会、平成7年2月10日於神戸地方検察庁講堂)。もし合意解除ということになれば、罹災都市法の適用を受けることができません。そうなると再築された建物に対する優先賃借権なども放棄したことになり、それではあなたにとって心外であり、争いのタネを残すことになりかねません。そこで、もしこの後もここに住み続けたいとお考えなら、敷金を受け取る際に、文書で、「このたびの特別法の権利は放棄しない」「優先入居権は認める」といった確認をしておくのが賢明でしょう。
なお、当会の弁護士ら多数の実務担当者の見解では、特別法が震災時点の借家人の保護法であるからには、とくに合意解除を確認したときを除き、通常は、借家人が敷金を受領しても合意解除にはならないという見解です。
(再築された建物への優先入居権や今回の罹災都市法で認められた借家人の権利については「罹災都市法」の解説をご覧ください)

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