法のくすり箱
Q、私には30歳を過ぎた息子Aがいるのですが、ギャンブル狂で困っています。金に困ると、家のものを勝手に持ち出しては質に入れたり、脅したり暴力をふるったりして金をせびるのです。果ては結婚した娘(Aの妹)のところにまで押しかけて、同様の騒ぎを起こしています。
わが子ながら情けなく、意を決して警察に届けようか迷っているのですが……
A、息子さんの行為は、刑法の「窃盗」「恐喝」の罪にあたり、ひどい暴力によって傷つけられた場合には「傷害」の罪にも該当します。窃盗・恐喝罪は10年以下の懲役、傷害罪については10年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料に処されることになっています(235・249・204条)。
しかし、刑法には親族間の犯罪についての特例が設けられています。その第1項によると、配偶者・直系血族・同居の親族の間で、「窃盗罪」「不動産侵奪罪」を犯した者(未遂も含む)は、その刑を免除するとなっているのです。さらに第2項には、前項に規定する以外の親族間で犯した同様の罪は、告訴がなければ起訴することができないとあります(このような犯罪を親告罪という、244条)。
そして、この親族間の犯罪についての特例は、「詐欺」「背任」「恐喝」「横領」等の罪にも準用されるのです(251・255条)。
したがってあなたの場合、息子さんとの関係は、当然この直系血族にあたりますので、「窃盗」と「恐喝」の罪については、処罰されないということになるわけです。親子・夫婦間の財産などについてはどちらの所有か区別が難しいことに加えて、こうした特別に強いつながりのある関係ではたとえ窃盗などが判明しても許してしまうことも多いからです。ですからたとえば、犯人がわからず届け出た窃盗事件が、捜査の過程で同居親族の犯行とわかれば、不起訴処分として捜査も打ち切られるのです。
次に娘さんご夫妻の被害の件ですが、Aとは直系血族ではなく兄妹及びその配偶者という傍系の親族にあたりますので、特例の第2項が適用されることになります。ですから、娘さんご一家が警察に正式な告訴手続きをすることで、「窃盗」と「恐喝」の罪については、刑法上の事件として扱われることになります。
一方、「傷害罪」については、このような親族間の特例は適用されません。たとえ親族の間であろうとも、暴力は決して許されるべきものではないからです。ただ、「法は家庭に入らず」という考え方にもとづき、一般に警察は家庭内のもめごとに関してできるだけ穏便にすませようとする傾向にあります。
現実に判例でも、夫婦間での軽微な傷害事件を罰することはしていません。とくに強暴な暴行を働いたものでもなく、しかも夫婦関係も維持されているなら処罰しないというものです。このように、他人に窺うことができない私的な生活関係として、夫婦・親子などの間での暴力や傷害事件は、軽微であえて処罰する必要もないと判断されるようなケースでは、刑法の適用を差し控えているのです。
もっとも最近、カナダで日本の総領事が妻に暴力を振るい、これは夫婦喧嘩だと発言したことについて、国際世論の大きな批判を浴びたことは記憶に新しいところです。親族間だから暴力が許されるなどということはけっしてないのですから、あなたが、息子さんに処罰を求めるなら、警察に強く申入れて逮捕等の手続きをとってもらうことでしょう。
もし、やはり警察に介入してもらうことについて躊躇されるのなら、すぐに解決方法がみつかるかどうかはともかく、最寄りの家庭裁判所に出向いて親子関係調整の調停をすることも可能です。家庭裁判所で、第3者の調停委員や裁判官をまじえて紛争解決へ向けての適切な指導・助言を受けることができる制度です。また、あまりにも浪費がはげしく財産を使い果たしてしまい、それでもまったく反省の色がみられず家族にたいへんな苦労をかけるなどといった極端な場合には、準禁治産者の申立をすることも可能です(親子関係トラブル・相続問題を参照)。これらのことも考慮に入れて、家庭裁判所に一度相談に出向かれるのも方途ではないでしょうか。

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