法のくすり箱
Q、私は妻に先立たれて80歳になりますが、先日、戸籍謄本を取り寄せる機会があり、そこに、私の孫C(20歳)が私の養子になっているのに驚きました。私にはかなりの財産があり、このままでは将来それを一人息子のBが相続することになります。が、Bは浪費家で女癖が悪く嫁や孫Cに苦労をかけっぱなしです。私は、Bが子供のころのようなまじめな人間に戻ることを願っていますが、子の身持ちが悪いからいって、別に孫のCを養子にしようとまでは考えていません。このままではどうなるのでしょうか?
A、あなたには孫のCを養子にしようとする意思がなかったのですから、誰かが勝手に役場や区役所に養子縁組の届出を出しても、そのような届出による養子縁組は無効です。このような当事者の一方または双方が知らない間に届出がなされるケースは、養子縁組だけでなく、婚姻や協議離婚や協議離縁などでもおこりますが、いずれの場合も無効であり、当事者の意思が伴わない届出によって養子になったり、結婚させられたり、離婚したりすることはありません。
理屈の上ではたしかに無効なのです。しかし困ったことに、役所の戸籍係は、形式的に届出書の様式(養子の書式も役場等に備えられています)がととのっていれば、受付けることになっています。養子縁組などの届出は形式さえととのっていれば、他人の代筆であってもチェックはされず、届出を郵送で行うことも可能です。そして受付けた届出に従い、戸籍に養子縁組や婚姻などの事項が記載されます。ちなみに本人に無断でこのような届出をした人は、私文書偽造行使・公正証書原本等不実記載罪等(刑法157・159・161条)の罪を犯したことになるのです。
しかし一旦戸籍に記載された養子縁組などの記載は、いくら当事者本人が申し出ても訂正されません。あなたの場合は、(1)Cを相手に養子縁組の無効確認の調停(家事審判法17条・18条1項)を家庭裁判所に申し立てて無効であることを確認した調停調書を得る、(2)先(1)の調停が不調のときはやはりCを相手に地方裁判所へ養子縁組無効確認の訴訟をおこして無効確認の判決をとる──こうした手続きを経て、やっと戸籍の訂正を行うことができるという、厄介なことになります。
あなたが面倒くさいと考えてそのままにしておかれるのも一つの選択です。その場合には、子Bや孫Cが右の無効確認の手続きをとらない限り、あなたはCを養子にしたことになり、あなたの相続は、実子Bと養子Cとによって行われますから、少なくともCが相続した財産はBによって浪費蕩尽されることはないでしょう。この養子縁組届も、存外、Bの浪費や素行を案じたその妻子(嫁・C)があなたからの相続を目的に苦肉の策として出したのかもしれません。
ちなみに、右の養子縁組無効確認の調停や裁判では、縁組の届出がなされている時点において「真に養親子関係を設定する意思」があなたと孫Cとの間にあったかどうかをめぐって争われます。養子にする意思はなかったというあなたの言い分がとおれば、その旨を記した裁判所の調書や判決を添えて役場等の戸籍係に訂正を申し出ることができます。戸籍が訂正されて、やって名実ともに縁組が無効だったことが確定し、当事者も第三者もこれを争うことができなくなります。
もし、裁判までいってあなたが敗訴するようなことがあれば、結局お孫さんCとの縁組は有効であることとなり、誰もこの縁組の無効を主張しえなくなるのです。

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