法のくすり箱
Q、小さな鉄工所を経営しています。先ごろ、経理を担当している女子事務員が妊娠したため、産前産後の休暇をとりたいと申し出てきました。経理のできる者はこの事務員だけですので、仕事をする上でたいへん困ります。残念ですが、彼女にはやめてもらって新しい事務員を雇うことも考えていますが、どうすればよいのでしょうか?
A、出産・育児は、本人のみならず、社会全体にとってもきわめて重要な役割です。そこで、産前産後の休暇は法律できびしく保障されています。労働基準法では、この産前産後の休業期間中及びその後30日間は解雇が禁止されています(19条1項)。たとえ労働者の側に責任がある場合であっても、この期間中は解雇できないのです。また男女雇用機会均等法では、産前産後の休業を理由に解雇してはならないとも定められています(11条)。
ちなみに、産前休暇は、出産予定日の6週間以内から本人が請求した場合のみ与えられます(双子以上を妊娠している多胎妊娠の場合は14週間以内)。本人の請求によるものですから、まだ無理なく働くことができると思う人は休みをとらなくてもよく、いつ産前休暇をとるかは自分の体調や周囲の事情を考慮して決めることになります。出産間近まで働くつもりでいても事情が変わって休もうと思いついたときには、すぐに産前休暇を請求することができます(労基法65条1項)。
一方、産後休暇は、本人が請求しなくても、出産後8週間は休暇が義務づけられており、仮に本人が働きたいと思っても、就業させてはならないことになっています。ただし、出産してから6週間がすぎて産後の肥立ちもよく、医師が復職しても支障がないと認めた場合は、本人が希望するなら就業することができます(65条2項)。ですから、彼女が産前産後の休暇を申し出たことを理由に解雇することはできないのです。
ちなみに、このほかにも労基法は、妊産婦からの請求があれば時間外・深夜・休日労働をさせてはならないなど、労働時間や就労業務についても妊産婦保護の規定をもうけています(64条の5、66条)。
また出産後1年に満たない子供を抱える女性は特に育児時間を請求することができます(1日2回各30分以上、労基法67条)。子供が1歳になるまでは育児のための休業が保障されています(育児休業法2条)。この育児休業法は平成7年4月1日より規模の大きさに関わらずすべての事業所に適用されました(くわしくはそよ風58号)。育児休業の申出があった場合、雇い主はこれを拒むことはできませんし(6条)、これを理由に解雇することも許されません(10条)。もし彼女が、産前産後休暇と育児休業をあわせて利用すると、最長1年2ヶ月近く休職できることになります。
もっとも、産前産後の休暇や育児休業中の賃金については、法的には有給・無給の定めはありません。現状は、企業によってまちまちですが、さてあなたの鉄工所はどうなさいますか。とにかく、彼女とよく話し合って、いつまで休むのか、又いつから確実に働けるのかなどの意向を確認するのが第一です。その上でどうすれば仕事をカバーしていけるかを考えるほかありません。皆で何とかして穴埋めをすることができるでしょうか。あるいは派遣社員をたのむという方法もあります(人材派遣業法の改正により、平成8年12月から育児休業の代替要員は全業種で雇用OKとなった。そよ風87号参照)。彼女が復帰するまでの間派遣社員をたのむ、あるいは会社の事情を納得してもらい退職金などを考慮することで合意退職をとりつける、など、いずれにしても円満に解決できるよう最善を尽くす必要があるでしょう。

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