
法のくすり箱
Q、5年前にあちこちで借金をして蒸発していた弟から、突然便りがありました。聞いたこともない小さな町でひっそりと暮らしており、少しだが貯金もできている様子です。借金の貸主からの連絡を気にしていますが、5年もたてば時効にならないのでしょうか?
A、たしかに時効が成立していれば、弟さんは時効の利益を受ける旨の意思表示(時効の援用)をすることで支払いを拒むことができます。しかし、この時効は、弟さんがどんな目的のために、また、どこから借金をしたのかによって異なってきますのでご注意ください。
まず、弟さんは、個人的な必要から借金をしたのでしょうか。それとも、何か事業か商売をしていてその営業の必要から借金をしたのでしょうか。
営業のための借金には商事時効が適用され、5年間で時効が成立します(商法522条)。しかし、弟さんが個人的な必要から借金をした場合には、その借入先が問題です。
借入先が、銀行・サラ金会社などの法人であれば、やはり商事時効が適用されて5年間で時効です。しかし、借入先が法人ではなく個人のときには、時効には10年を要します(民法167条2項)。もっとも、最近、借入先が個人の貸金業者のときには、「金銭の貸付又は金銭の貸借の仲介を業とする者」として商法(502条8号)が適用されて5年の商事時効の適用を受けるとする考え方が強まってきており、弟さんとしては主張してみる価値があります。
さて、以上は弟さんが貸主から時効の中断を受けないで5年間が経過したことを前提にした議論です。もし、この5年の間に、弟さんが貸主に対して承認したり(「必ず金は返す」「もう少し待ってくれ」と言ったり、借金の一部や利息を払うこと)、貸主から請求を受けていたり(ただし、裁判などによる正式な請求であることが必要。単なる催促では、6ヶ月以内に裁判を起こさなければ請求の効果がなくなる)すれば、それまでの時効期間は効力を失い、そのときから改めて時効が進行します。
右の事情があれば、弟さんはまだ時効を主張して支払いを拒むことはできず、債務の任意整理や場合によっては破産手続をせざるを得ないこととなります。
〔債務の任意整理については「そよ風」84号、破産手続については「そよ風」61号・84号参照〕

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