
法のくすり箱
Q、個人輸入代行業者に依頼して、Cブランドのバッグを買おうと20数万円の支払いをしましたが、一向に品物が届きません。もういらないから返金してくれと連絡しても、生返事ばかりでらちがあきません。裁判をするとお金も時間もかかるからあきらめるしかないかと思っていましたが、平成10年1月から新制度で少額訴訟ができたと聞きました。どんな手続きでどうすればよいのかお教え下さい。
A、少額訴訟というのは、60万円以下(平成16年4月1日に,上限が30万円から60万円に引き上げられた)の金銭支払いを請求する場合に限って、原則として1回の期日に審理を終え、その日のうちに判決の言渡しも受けるものです。民事訴訟法の改正に伴って、平成10年1月1日から実施された新制度です(民訴法368条〜381条、民事訴訟規則222条〜231条)。
こんなに「早い」「安い」「便利」な制度を、ローン会社やサラ金会社だけに利用させる手はありません。一般市民・消費者も手軽に広く活用しようではありませんか。たとえば、家主が敷金返還に応じてくれない、交通事故で軽微な物損を受けたが加害者が弁償しない、アルバイト代やパート代を踏み倒された、商品の欠陥でやけどやケガを負った等々、これまで仕方がないと泣き寝入りをしてきた者も、この新制度をうまく利用することで納得のいく解決がはかられるはずです。
具体的な手続きですが、簡易裁判所に訴訟を提起する際に、「少額訴訟で」と指定します。訴状の書き方がわからなくても大丈夫!簡易裁判所にはヒナ型がありますし、裁判所の書記官が親切に対応してくれるはずです。そして裁判の期日が決まれば、その日1日で審理を終えますので、審理の際に証拠書類をそろえて、証人がいれば同行して裁判に出向きます。証人が遠方なら、電話等での尋問を申し出ることも可能です。あなたの場合なら、バッグ購入の申込書や契約書、そして代金支払いの領収書などが証拠として必要となるでしょう。
相手方(被告)には、あなたが提出する訴状が送達されますが、その際に、これが少額訴訟であること、またその説明と注意事項が一緒に届くことになります。被告も、審理の期日に、すべての主張や証拠・証人をそろえて出向く必要があります。あるいは、審理の期日までに、または審理の際に、少額訴訟ではなく、通常の手続きに移行するように申し出ることができ、この申出があったときには、普通の裁判手続きとなります。
1回の期日で判決まで出すわけですから、証人調書を作成したり判決書の原本を作成したりすることは基本的に省略されます。代わって、申出などにより尋問の様子はテープに録音されますし、判決書に代わる調書が作成されてこれが原告・被告双方に送達されます。
判決の内容は、原告の請求を認める場合、現実に即して支払いの猶予を認めることもできるようになりました。つまり、被告の資力その他の事情を考慮し、3年以内の範囲内で、分割払いや期限を切った支払いを決めて、それを履行すれば遅延損害金を免除するなどの柔軟な措置がとれることが特徴です。またこの判決には、職権で仮執行の宣言(判決が確定しなくても、仮に債権を取り立てることができる措置)を付けることになります。
少額訴訟判決では、一般の裁判手続きによる判決とは異なり、上級裁判所に控訴することはできません。かわって、判決書に代わる調書が送達された日から2週間以内に、同じ簡易裁判所に異議申立てをすることができます。この異議申立てがなされると、裁判は振出しにもどり、もう一度通常の裁判手続きがとられて審理が行われ、改めて判決が出されます(少額異議判決と表示)。
この判決も、やはり控訴はできません。憲法違反を理由にして最高裁判所に特別抗告ができるだけです。
なお、ローン会社やサラ金会社などがこの少額訴訟を安易に乱発しないために、この制度を利用できるのは、同一の簡易裁判所について1年に10回までと限度が定められています。

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