
法のくすり箱
Q、高校2年になる私の息子(16歳)が、友人Aに下半身が不随になる重傷を負わせてしまいました。かねて息子は他の友人B等と数人でAをいじめていたようで、息子がAを投げつけたのが直接の原因となりました。本人はいじめに加わらなければB等からいじめられる状況だったと弁解しています。これからどんな手続でどんな処罰を受けることになるのでしょうか?
A、犯罪を犯した場合、成人(20歳以上)には刑法が適用されますが、未成年者(20歳未満)には少年法が適用されます。少年法において未成年者は「少年」であるとされ(少年法2条)、少年には、原則として、刑罰(刑事処分)ではなく、少年院送り・保護観察といった保護処分が課せられます。ただし例外として、少年の罪質や情状からいって刑事処分が相当と判断される犯行の場合には、少年が16歳以上であるときに限り、改めて刑事裁判を受け少年刑務所で服役する場合があります。このとき18歳未満の少年は死刑と無期刑の罪が緩和されます。また少年が14歳未満であるときには、いかなる場合であれ、刑事処罰はできず(刑事責任年齢、刑法41条)、保護処分だけが可能ということになっています。
あなたの息子さんは16歳ということですから刑事処分の可能性もありますが、本人がほんとうに率先していじめたのではなく、よく反省している等の事情が認められれば、少年の健全育成の見地から、少年院送致・児童自立支援施設送致・保護観察処分のいずれかの保護処分を受けることになると考えます。
さて傷害事件をおこした息子さん(犯罪少年、16歳以上20歳未満)は、成人と同じく、まず警察・検察庁の取調べを受けます。成人ならばそこで検察官が起訴するかどうかを決めますが、少年の事件はすべて家庭裁判所へ送致されます。
事件が送られてくると、家庭裁判所は、観護措置といって、少年を少年鑑別所へ収容するか、それとも少年を家庭においたまま調査するか、どちらかを決めます。鑑別所での収容観護の期間は最長4週間(原則として2週間、1回に限り更新可)で、この間に審判が行われます。家庭での在宅観護のときは調査官による調査の後に審判が行われます。
少年の処分は、審判手続で審理されます。審判は、審判官1人と少年(息子さん)のほか保護者が出頭して行われます。さらに附添人といって弁護士を立てて少年のための弁護活動をすることが許されています。しかし検察官の出頭は認められていません。ここでは審判官が裁判官の役割だけでなく検察官の役割や(附添人のつかないときには)弁護側の役割までもこなすのです。審判は非公開で、懇切を旨として、なごやかにこれを行わなければならないとされています(少年法22条)。そして問題の非行(犯罪)があったかどうか、少年の個性・環境・要保護性などが審理され、処分が言い渡されます。
通常、処分としては、次の3つの保護処分のいずれかが決定されます。
(1)保護観察
保護観察署の観察官や保護司の指導監督のもとに日常生活において善行を保持し改善をはかる。
(2)少年院送致
14歳以上20歳未満の少年を性行・年齢等に応じて収容し、そこで生活指導・教育職業訓練などを行う。家庭裁判所が審判により少年に言い渡す保護処分の中で最もきびしい処遇である。
(3)児童自立支援施設送致
18歳未満の非行少年などを収容して教育・保護する施設。かっては教護院・感化院といわれ、少年院より犯罪化傾向が初期のものが多い。
このほかの処分としては、検察官送致(16歳以上の少年について刑事処分を受けさせるのが適当とされた場合)、児童相談所送致(少年を児童養護施設などへ入所させるのが適当とされた場合)があり、もちろん非行事実がないときや保護処分の必要性がないときには、不処分となります。
なお、家庭裁判所の審判に付された少年については、新聞・雑誌などに、その少年があなたの息子さん本人と推定することができるような氏名・年齢・住居・容貌などの記事や写真をのせてはならないとされています(少年法61条)。少年法がこのように非行少年の人権や健全育成に配慮しているのは理由のあるところです。しかし、淳くん・彩花ちゃん殺害事件等を機に、被害を受けた側からは、審判が非公開で行われるため事件の実体がわからず、少年院に行ってもすぐ出てくる(最長3年だが多くは1年程度)といった点への不満がふき出しています。また、前記のように、単独の裁判官により行われる現在の審判制度では、担当の単独裁判官の負担が重いために、非行少年側が非行や事実を否認したときの審理の限界などが問われています。
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☆少年鑑別所
家庭裁判所での審判に必要な調査を行う施設。
少年を収容して、外部からの刺激と影響を受けないような状態におき(2週間から4週間拘束)、心理学・社会学・医学等の専門的知識によって資質の鑑別を行う。
単なる拘禁施設ではなく、資質の鑑別を通じて、少年の科学的処遇の実現をはかるために重要な役割を果たしている。
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☆少年院
犯罪化傾向のある少年を収容して矯正教育を行う施設。初等・中等・特別・医療の4種類の少年院があり、それぞれ次のような者が収容される。
(1)初等少年院
心身に著しい故障のない14歳以上おおむね16歳未満の者
(2)中等少年院
心身に著しい故障のないおおむね16歳以上20歳未満の者
(3)特別少年院
心身に著しい故障はないが、犯罪的傾向の進んだおおむね16歳以上23歳未満の者
(4)医療少年院
心身に著しい故障のある14歳以上26歳未満の者
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