
法のくすり箱
Q、最近、ニュースなどで通り魔の事件をよく耳にして、たいへん恐ろしく思っています。もしわが家の大黒柱の主人が被害にあったらと思うと、気が気ではありません。そんなとき、何か経済的な援助をしてくれるような法律はあるのでしょうか?
A、不慮の犯罪による被害を受けたとき、その被害者等に国から給付金が支払われるという制度があります(犯罪被害者等給付金支給法)。
これは、日本国内あるいは日本の船や飛行機内で起こった犯罪による被害に対して支給されます。たとえ、心神喪失や14歳以下の犯罪等で犯人は罰せられない場合であっても、あるいは犯人が不明な場合であっても給付の対象となります(法2条)。
被害者が死亡した場合には遺族給付金が遺族に、障害が残った場合には障害給付金がその程度に応じて本人にそれぞれ一時金として支給されます(法3・4条)。しかし、これは被害の補償や賠償として支払われるわけではなく、あくまで一時金として支払われるため、入院費等の支給はされませんのでご注意ください。
まず遺族給付金ですが、支給を受けることができるのは、(1)配偶者、(2)被害者の収入で生計を維持していた子供・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹、(3)被害者の生計に頼っていない子供・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順序となっています(法5条)。そして支給額は、給付基礎額をもとに計算されます(法9条)。給付基礎額は被害者がその勤労に基づいて通常得ていた収入の日額の7割として(別途年齢ごとに最低・最高額の定めがある)、この給付基礎額に1300(原則として遺族が被害者の収入で生計を維持している場合)、あるいは1000(それ以外)が乗ぜられた金額が給付金額となります。
次に障害給付金ですが、これは被害者本人に支払われます。給付基礎額は先述の収入日額の8割とされ、これに、障害の等級が第1級なら1340、第2級なら1190、第3級なら1050、第4級なら920の数をかけたものが支給額となります(このうち、第4級は本年4月1日から新たに加えられた制度で、たとえば視力が0.06以下、聴力0、両手手指全ての機能停止、片手・足のひじ・ひざ以下の喪失等が対象となる)。
なお、遺族給付金の最高額は約750万円、障害給付金は約1000万円で、交通事故の際の損害賠償基準等に比べて金額が低いことは否めないところです。
また、被害者と加害者の間に親族関係(夫婦・直系血族等)があるときや、その犯罪行為を誘発するなど被害者にも非があるとき、あるいは、暴力団等に加入していたなどの事情があれば、給付金は一部減額されたり支給されないこともあります(法6条、規則2〜11条)。
さらに、被害者や遺族が他の法令(労働者災害補償保険法・自動車損害賠償保障法等)により給付金を受けたときや、あるいは加害者等から何らかの損害賠償の支払いがあったときには、その額を除いた額が支給されます(法7・8条、施行令2・3条、規則12・13条)。
給付金の支給には時間がかかることも考えられるため、給付金の3分の1にあたる額の仮給付も認められています(法12条)。ただ、最終的な決定額が仮給付金より少ない場合にはその差額を返還しなければなりません。
さて、具体的な申請の方法ですが、まず申請者の住所地を管轄している都道府県公安委員会(実際には警察)に給付金支給裁定申請書と定められた書類(死亡年月日の証明や医師の診断書等)を提出します(法10条1項、規則16・17・21条)。公安委員会はすみやかにその調査・裁定を行い、給付の決定・却下等を申請者に通知すると同時に、給付決定の場合には支払請求書を交付します(法11条、規則19・20条)。申請者は、この支払請求書を国に提出して給付を受けることとなります(規則20条)。
ただし、申請は被害発生を知ってから2年以内、または被害発生から7年以内に行わなければなりません(法10条2項)。そして支給を受ける権利は2年間で時効(法16条)となりますのでご注意ください。
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