
法のくすり箱
Q、私は老父と同居して家業を継いでいます。すでに独立して世帯をもっている弟と妹が1人ずつあり、兄弟仲も悪くありません。ただ父も年ですので、父の名義となっている現在の店舗兼住居の建物の相続が心配です。父にはこの建物のほかには目ぼしい財産はなく、私はこの家に住まないと家業を続けることができません。このままで父が亡くなるようなことがあれば、一軒の建物を兄弟3人で3分の1ずつ相続するということになるのでしょうか?
A、そのとおり、今のままでお父さんが逝去されたときには、子供3人が3分の1ずつ相続することになります。あなたがお父さんを助けて家業を継続されたことや同居しつつ世話をされたことを寄与分として主張し、弟妹よりも多くの相続分を得ることは可能ですが、弟妹が納得してくれなければ家庭裁判所へ寄与分を定める審判を申立ててその有無・内容を決めてもらわなければなりません(民法904条の2)。その寄与分の考え方も、建物の全部をあなたに授けるものではありません。
さて相続をめぐって、それまで問題のなかった兄弟仲が崩壊する事例が少なからず見受けられるのは残念なことです。「争続」を未然に防ぐには、意を決してお父さんに適切な遺言書を書いてもらうことです。まだしっかりしている間に、子供たちのために適切な遺言書を作るのは、父親の義務でもあります。
「適切」な遺言というのは、どんな遺言でしょうか。たとえば、あなたには建物全部を与えて居住と家業継続を確保させ、弟妹にはあなたから一定の代償金を支払うことを骨子とするものであれば、その代償金については兄弟の目下の経済力やこれまで親として果たした子への援助の額等の実情を考慮し、この程度なら出せるだろうあるいは不満でも辛抱してくれるだろうといった点をよくよく考え抜いて、子供らの和親への祈りのこもった遺言となることが理想です。
これまでにそよ風誌で紹介しましたが、公証人役場というところがあります。ここでは公正証書という形で遺言書を作成してくれます。むろん法律事務所に出かけての相談もいいことです。
また「不適切」な遺言書が争いの種となる場合もあります。はたして遺言者の真意かと疑われるような内容のものが、遺言者がすでに半ば健常性を欠いたり意識が混濁している時期に作られるなど……。しかし、これからは、まだ元気なうちに子供達が自分の死後も仲良く安心して暮らせることを主眼とする「遺言」を、公証人や法律家の助言の下にもっともっと普及させる必要があります。どうか、お父さんのためにも、あなた方兄弟のためにも、賢明な適切な遺言を(できれば公正証書で)すすめて下さい。

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