法のくすり箱
Q、私たち夫婦は4年前まである町で小さな商売をしていたのですが、夜逃げをして今の町に来ました。経営の不振からあちこちのサラ金に手を出して500万円ほどになったところで全く支払いができなくなり夜逃げしたものです。各地を転々とした末、最近、この町の会社の独身寮に管理人として夫婦で住込みの職を得てようやく落ちついた矢先に、大手のサラ金T社から支払いを求める通知が届きました。T社だけで済むならば、無理して支払うことを考えていますが、支払っても大丈夫でしょうか?
A、夜逃げをした人はそれまでの住民登録を放置したままにしていることが多く、取り立てる側でもなかなか債務者の住所を突きとめにくいものです。その間に年月が経過したときには時効が進行し、債務者は支払いを免れる状態になることも考えられます(貸金債務が消滅するための時効期間は、普通は10年ですが、あなたのケースのように借金が商売上の借入れであれば商事の短期時効として5年で時効になります)。
T社があなたに連絡してきたのは、おそらくあなたが現住所に住民登録をされ、そのことが夜逃げをされた町の住民票の除票に記載されたからでしょう(T社は弁護士や司法書士を通じて住民票を容易に入手できます)。T社以外のサラ金各社も必要に応じ住民票をチェックできますから、早晩、T社以外の他のサラ金各社もあなたの今の住所を確認して請求してくるものと思われます。ですからT社に対して支払うことも支払いを約束することも、その場しのぎにしかなりません。すみやかに法律事務所を訪ねて弁護士に相談してください。
弁護士はあなたのようなケースでは多く(1)自己破産の手続きをとります。しかしあなたが借入残金の半額以上を用意できるような場合には、債務整理といって、弁護士に頼んでサラ金各社と交渉し利息をカットしてもらったりした上で(2)一定額を一括払いして和解に持込むことも可能です。また(3)分割弁済による解決をはかってもらうよう交渉を頼むこともできます。
いずれの場合にせよ、弁護士はまずもってあなたから借入先と借入額・借入時期などのあらましを聴取し、借入先各社に弁護士介入の通知を出し、あわせて、各社に改めてあなたへの貸付についてのくわしい報告を求めます(この間、サラ金各社は、弁護士のみを窓口とし、あなたに直接に連絡や交渉をすることが禁じられます)。
さてその次はというと、あなたの場合、その収入や資産状況から各社への返済が困難な事情にかんがみ、前記(1)の自己破産の手続きをしてもらうとします。破産事件になった場合でも、破産手続進行中のあなたの収入はあなたの財産として自由につかうことができます。破産ということになっても、あなたには選挙権もあり、また戸籍などに破産者という内容を記載されることもありません(破産に伴う法律効果などについてくわしくはそよ風61号参照)。
またあなたのようなケースでは、破産の決定の後に、すぐに免責(「ことば欄」参照)という裁判手続きに入ることができます。そこで免責決定を受けると、あなたは復権し破産者でなくなります。と同時に負債のまったくない状態となるのです。
ことば欄
★☆免責☆★
破産者の経済的な再起・再出発を助けるために、誠実な破産者に対しては責任を免除しようとする制度(破産法366条の2以下)。
破産者は、破産の手続きがなされている期間内(同時廃止といって破産手続きが破産宣告と同時に終わってしまう場合にはそれから1ヶ月以内)に裁判所に対して免責を申立てることができる。そして(1)破産に至る過程で本人が詐欺や虚偽陳述などをしていたり、(2)過去10年内にこれまで破産者として免責を受けたことがあったり、(3)破産者の義務(居住制限など)に違反したりしていなければ免責を受けることができる(366条の9)。
免責を受けると、破産手続きで債権者が弁済を得なかった部分についてもゼロとなる(もっとも租税や破産者の悪意による不法行為の賠償金など、特別のものは免責されない。366条の12)。また破産者としての就職制限等も解かれて復権することができる。
ちなみに、英米ではこのような免責の制度が古くから採用されていたが、独仏墺などでは採用されていなかった。ドイツは統一後初めて免責を導入したが、免責には7年間の善行保持期間を義務づけることにしている。他方、わが国は免責を認めているが、一律かつ無条件に認めるのではなく、誠実性という倫理的要素を考慮することにしている。

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