法のくすり箱
Q.最近テレビなどで国選弁護人という言葉をよく耳にします。どのように選任され、ふつうの弁護士とどのように違うのでしょうか?また当番弁護士という制度もあるようですが、どのような制度なのでしょうか?
A.裁判には大きく分けて民事裁判と刑事裁判があります。そして国選弁護人というのはこのうち、刑事裁判で行われている、被告人の人権保護のための制度です。
刑事裁判とは、刑法などの法律で定める犯罪類型に違反した者に対して国家が刑罰を科すべきかどうかを裁判所において審理しようというものです。したがって刑事裁判にあっては、国家公益を代表して法律のプロである検察官が個人を訴追するという形がとられます。このため個人に対して国家の大きな力が働きます。また刑事事件においては、取調べ段階から被疑者の身柄を拘束したりするなど、やはり個人に対して国家の大きな力が働くことになります。
そこで憲法は、国民の刑事事件における人権を保障するために、法的な手続きの保障や裁判を受ける権利などを手厚く規定しています(31〜40条)。
すなわち刑事事件に関連して憲法は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」(34条)と規定し、被疑者(犯罪の疑いがあり、起訴前の者)の段階から弁護人をつける権利があることを明記しています。さらに、いざ起訴されて裁判になれば(この時点で被告人と呼ばれる)、「刑事被告人は、いかなる場合にも資格を有する弁護人を依頼することができる。…(貧困などの理由から)自らこれを依頼することができないときには、国でこれを附する」(37条の3)と規定しています。この国で附する弁護人の制度が国選弁護人と呼ばれるものです。国の負担において、弁護士登録をしている一般の弁護士から弁護士会を通じて選任されます。
この国選弁護人は被告人本人が請求する場合のほかに、裁判所が職権で付ける場合(被告人が心神喪失者や70歳以上など)もあります(刑事訴訟法36・37条)。とくに、一定の重罪(死刑・無期、12年を越える懲役や禁錮)の審理では、弁護人抜きで裁判をすることはできず、弁護人がいないときには裁判所が職権でこの国選弁護人を付けることになります(同289条)。
現実の弁護活動においては、国選弁護人であろうが、私選弁護人(自分で依頼し費用を支払う)であろうが、被告人の権利を守るために活動することに違いはありません。ただ国選弁護人は被告人との直接の委任関係ではないので、私選弁護人と違って勝手に解任できません。
ところで現在のところわが国の制度では、裁判になった段階の被告人には国選弁護人を付けることができても、裁判前の被疑者の段階では国選弁護人を付けることはできません。しかし被疑者も警察で取調べの拘束を受け、自分で証拠集めや弁護活動をするのが困難な場合が少なくありません。そしてこの取調べの段階で被疑者の意に反する調書が作成されて後の裁判で取り返しのつかない結果が生ずることもなくはないのです。そこで最近全国の弁護士会や法律扶助協会が協力して実現したのが当番弁護士の制度です。これは被疑者が希望すれば初回に限り無料で24時間以内に弁護士が駆けつけるシステムです。目下のところこのシステムは弁護士会の自助努力でいわばボランティア活動として維持されています。しかし将来的には早急に、被疑者段階からの国選・公選弁護人制度が法律上の制度として国費をもって導入されるよう望まれるところです。

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