Ａ、交通事故による損害賠償の問題は、その８割以上が示談によって解決されています。示談とはこの場合のように、交通事故などによる紛争を当事者間で話し合って裁判外で解決する契約で、法律的には和解契約（民法６９５条）になります。これは争いを最終的に解決する契約ですから、いったん示談が成立した以上、くつがえすことはできません。一般に示談書には、「今後、名目のいかんにかかわらず、当事者双方はなんらの請求をしない」という旨の請求権放棄条項が記されています。
　しかし、あなたの場合のように示談当時予想されなかった後遺症が発生した場合にも原則どおり追加請求できないとなると、被害者にとってたいへん気の毒なことになります。そこで、次のような場合に限って例外が認められています。すなわち、[1]示談内容が公序良俗に反する場合（実損害と比較して賠償額があまりにも低額な場合など）、[2]示談の前提とされ争いの対象とならなかった重要な事実について錯誤があった場合（示談当時予想されなかった後遺症のため示談額を著しく上回る損害が発生した場合、最高裁判例昭和４３年３月１５日）、[3]詐欺・脅迫によって示談させられた場合です。
　あなたの場合は、１ヶ月も入院しなければならない点から相当治療費もかかると思いますので、[2]の重要な事実についての錯誤に当てはまります。したがって、特別の事情がない限り（たとえば、将来後遺症が発生しても請求しないことを明確にしている場合など）、予想されなかった後遺症による損害をさらに請求することができます。
　もし話合いがつかなければ、調停または訴訟に持ち込めばよいでしょう。なお、示談書に後遺症が発生したときは改めて相談する条項が記されている場合には、当然請求できます。

＜傷害事故のときの簡単な示談書＞


示　談　書 住所　○○○○○○○○○○○○○ （甲）被害者　　×　×　　×　× 住所　○○○○○○○○○○○○○ （乙）加害者　　×　×　　×　× 　右甲乙間において、本日、左のとおり示談した。 １（事故の概要） 　　　事故日時・事故発生地・加害車両・事故の発生状況など ２（示談条件） (1)　乙は甲に対し、金○○○万円の支払義務のあることを認め、これを、○○年○月○日までに甲方に持参または送金して支払う。 (2)　本件事故により、将来甲に後遺症が発生したときは、別途協議する。 (3)　本件事故に関し、甲乙間には、本示談書に記載した事項の外には何らの債権債務も存在せず、今後名目のいかんによらず双方とも何ら異議申立をしないことを相互に確認する。 　右示談成立を証するため本書２通を作成し、甲乙各１通を所持する。 　　　　　○○年○月○○日 （甲）×　　×　　　×　　×　印 （乙）×　　×　　　×　　×　印



〔示談条件の(２)の項目が入ることが望ましい。しかし、入らなくても後遺症について請求できなくなるわけではないのは、本文中に説明したとおり。〕

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