法のくすり箱

.昨年私は思いがけない震災で妻を失い、それまで住んでいた家も全壊してしまいました。残された子供のために気持ちを取り直して働いていますが、建物を再建するにあたり、私の2人の弟から異論が出て困っています。じつは私が住んでいた土地建物は十数年前に死んだ父Aの名義のままで放置されており、その相続について兄弟で話し合う機会もなしに年月がたっていたものです。この機会に父の遺産に対する我々弟達の権利を考えてくれと言ってきたのです。どうすればよいでしょうか?


.土地建物があなたの父親Aさんの財産で、Aさんは死亡に際してそれを誰にやるとも遺言されなかったという事情のもとでは、土地も建物もあなたとご兄弟と計3人による共同相続財産ということになります。もっともAさんの奥さんがまだいらっしゃればその方も共同相続人ですが、すでに亡くなられているものとしてお答えします。
 そうすると、目下のところ、土地(建物はすでに滅失しているので除外)は3人の相続人の共有物であり、共有地の上に改めて新しいあなた所有の建物を建てることは、「共有物の変更(民法251条)」に該当します。共有物の変更の場合には、共有者である3人全員の合意が必要です。このためご兄弟が異論を唱えるとあなたは家を建てることはできません。
 このままでは家を建てることができない場合、あなたには、
@あなたがご兄弟に対して土地の共有持分を譲渡してもらうように請求する、
Aあなたがご兄弟に土地の共有持分を買い取ってもらうように請求する、
B土地を現実に分割するか土地を売却してその代金を分割する、
などの選択肢があります。上の@Aの請求は権利ではないので当然話合いが必要ですし、上のBは権利(共有物の分割請求、民法256条)なのですが、法的手続などに訴える前にやはり話合いが望ましいところです。
 そこでまずは話合いということで兄弟3人で父親Aさんの遺産の分け方について協議するということになりましょう。その際には、(a)あなたが亡父Aさんの家業を助けたり、Aさんの療養看護につとめたりしたこと(寄与分といわれる問題)の有無、(b)あなたがAさんと同居して世話をしたり、その扶養について支出をしてきたかどうか(父に対する兄弟の扶養義務分担の問題)、(c)土地建物を独占的に使用してきたこと(使用収益権として地価判断に考慮される問題)やその税金を支払ってきたこと、(d)兄弟のうちでAさんから生前に生計や結婚・学資等にまとまった金を受取っているかどうか(特別受益といわれる問題)など種々の事情が考慮されるでしょう。
 兄弟間の話合いは、家庭裁判所で遺産分割調停の形で進めることもできます。調停委員を間にしてその助言を得ながら、理性的に話し合うことが可能ですので、一度、家庭裁判所に出向いて相談されてはいかがでしょう。家庭裁判所は当事者の調停で解決がつかない場合には、裁判所の審判官が決定する審判(家事審判法9条乙類10号)という制度も用意しています。上の(a)(b)(c)(d)などの諸問題が反映された、納得のいく話合いを通じてあなたが首尾よく土地を入手されることをお祈りします。

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