Q.私は80歳の独居老人です。この前の阪神大震災により、長年住みなれた私の家が損壊し、今ではそれも解体され平地になっています。私は目下知人の家に仮住まいさせてもらっていますが、元の土地に簡易住宅を建てて余生を過ごしたいのです。元の家は、10年前亡くなった夫と私とが苦労して建てた土地付きの小さな住宅ですが、私は多年この土地になじんでおり、思い出のこもったこの場所を離れたくありません。ところが、別のところに住んでいる息子の嫁が、これを機会に土地を売りたいから私に家を建ててもらっては困ると言ってきました。実はこの土地は私の名義ではなく、嫁の名義なのです。夫が死亡した際に息子が私に、ずっとここに住んでもらってよいから、この家と土地は自分の名義にしてくれと頼むので、これに応じたのです。ところが3年前息子は交通事故で亡くなり、今では息子の嫁の名義になっているのです。もう私は元のところに住むことはできないのでしょうか?
A.あなたのようなケースの場合、あなたには、終生、その土地を使用して居住する権利、いわば「終身用益権」のようなものが認められていると考えられます。というのは、@亡夫の相続の際におそらくはそれまで夫名義であった家と土地を、あなたは全く相続しないで息子さんに相続させた。A息子さんの方も、お母さんはずっとここに住んで下さってよいから、自分の単独の相続にして下さいと頼ん だ──このようないきさつがあると思われるからです。このいきさつにより、 「元の家が壊れてもなお元の土地にさらにあなたが家を建てて居住する権利を裏付ける契約があった」と評価されるからです。息子さんがあなたに負担した「あなたにずっと住んでいただいてよい」という右契約上の義務は、当然、息子の嫁にも相続され引継がれると考えるのです。ちなみに、被災地神戸の裁判所でも、母親がずっと住み続けることを約諾して息子が亡父の土地付住宅を単独相続したあなたのようなケースについて、震災で家が倒壊してもなおその土地に母親が居住することを認める決定がなされています。
どうか安心して簡易住宅を建てて下さい。ただ、住宅ができる前に息子さんのお嫁さんがその土地を塀で囲ったりすると占有をめぐって新たに紛争を招くおそれがあり、できるだけ早くあなたがその土地を管理(塀・柵等も必要)され、建築・居住を急がれることが肝要です。
なお、念のため付言しますと、このたびの大震災において施行された罹災都市法(平成7月15日付そよ風号外参照)によれば、借家人に限らず、あなたのようにとくに家賃を払わないで住んでいた人に対しても、優先借家権(その土地に家が建てられた場合に優先的に賃借を求める権利)や借地権の設定請求権(その土地を借地させてくれと2年以内に請求する権利)が認められています。ただいずれも、これまでの無償使用ではなく、お金がかかることになります。とりわけ、借地権の設定にはその対価(設定料)としてまとまった支払い(罹災都市法のもとでも更地価格の3分の1程度)が求められることが予想され、地代を払いつつ簡易住宅でも家を建てるとなると相当の経済的負担を覚悟して頂かねばなりません。また、首尾よくそこに借りたいような家が建てられるのか、あるいは借地権の設定などに簡単に同意がなされるかなど、多くの問題が考えられます。あなたの場合には、前述の終身利用権が認められると考えられますので、幸いなことにこれらの問題にかかずらうことなく、家を再建できることになります。