法のくすり箱

.私は62歳で、月収は50万円あります。会社から「60歳以上の者は在職老齢年金の給付裁定請求をするように」といわれましたが、私の収入から考えて、どうせ年金は全額支給停止だと思います。もらえないのに申請するのはムダだと思うのですが、いかがでしょうか?

.おっしゃるとおり、当面、年金の支給は受けられません。しかし、それでも、裁定請求をなさることをお勧めします。
 平成6年10月の年金法改正により、60〜65歳の間に支給される在職老齢年金制度が大きく変わりました。そのポイントの一つが、60歳以上であれば、たとえ被保険者(働きつづけていて保険料を納めている)であっても、当然に年金受給権が発生する点です(厚生年金保険法附則8条)。従来は、60歳以上であっても、退職した人あるいは収入が一定額以下(標準報酬月額24万円)の被保険者に限って受給権が発生しました。つまり、改正により、60歳以上の被保険者については、一部の限られた人から全員(正確にいうとほぼ全員)へと受給資格権者の枠が大幅に拡大したのです。
 あなたのケースでも、受給権は平成7年4月1日(改正法施行日)に発生しました。しかし収入が高額なため、確かに年金は全額支給停止となってしまいます(Chapter1:国民年金法等の改正「在職老齢年金の制度」参照)。といっても、いつまでも今の収入があるとは限りません。面倒なようですが今回裁定の請求を済ませておくと、今後収入が減って、年金支給が一部停止(一部支給)の状況になれば、社会保険庁が自動的に計算を行い、一切何の手続もなしに指定の銀行口座に年金を振り込んでくるというメリットがあるのです(ただし退職した場合は、会社がする被保険者資格喪失届の後、改めて裁定請求が必要)。
 配偶者がある場合に加算される加給年金(年額22万6000円、平成7年度価額)についても、全額支給停止中はこの加給年金も停止されますが、一部停止の状況になれば全額支給されます。この場合にも、今裁定請求を済ませておけば、すべて自動的に支給が開始されます。
 これに対して、今は裁定請求をせず、2〜3年後の実際に年金がもらえるときに、あるいは65歳を迎えたときに年金裁定請求を行おうとすると、この加給年金をもらうための手続が厄介になります。配偶者に対するあなたの「生計維持の認定」の基準が受給権発生時(すなわち平成7年4月1日)であるため、その時点にまで遡った証明書を揃えなければならないのです。
 こうした面倒さを勘案すると、実際に年金をもらえる、もらえないにかかわらず、年金受給権が発生した時点(通常は60歳になったとき)で裁定請求されることをお勧めします。

ホームページへカエル

「法のくすり箱」目次にもどる