
法のくすり箱
Q、私はこれまでAさん所有のアパートの一室を借りていましたが、このたびBさんがAさんからアパートを買い取ったので改めて自分と契約書を作成してほしいと連絡してきました。これまでと同じ内容の契約ならかまいませんが、新しい内容の契約にされるのではと心配です。Bさんの申出に応じなければならないのでしょうか?
A、Bさんは、あなたが賃借中のアパートの建物をAさんから買い受けたとのことですね。
その場合には、Bさんは、あなたとの関係では、賃貸人であるAさんの地位をそのまま承継するものと考えられています。したがって、あなたはBさんに対しAさんに対すると同様にアパートの賃借権(借家権)を主張でき、Bさんもあなたに対して新しい条件をおしつけたり立ち退きを求めたりすることは一切できません。ですから、いわゆる「地上げ」行為は許されませんし、あなたが何ヶ月にもわたり家賃を滞納しているなどの特別な事情がないかぎり、立ち退き問題も生ずる余地がありません。このようにA(前所有者)からB(現所有者)への建物所有権の移転が売買・贈与等の譲渡行為で行われる場合には、あなたの賃借人としての地位はなんらの影響を受けないのです。あなたはBとの契約書の作成を拒んでも、従来どおりに賃借権は継続します。
しかしもう一歩進んで考えれば、新しい家主のBさんと円満確実な契約関係を構築するためには、Bの名義の契約書を作成して従来のAの名義の契約書と差しかえておくことも悪いことではないかもしれません。その際には、Aの名義をBに切換え次の契約の更新時期までは従来どおりの契約内容とするのが通常です。
しかしもしあなたが承諾できる内容のものであれば、Bさんと改めて賃料その他について新しい契約条項を盛った賃貸借に改めることも可能です。そのときにはあなたとしても、Aさんとの契約になかった新しい条件を持ち出すこともむろん交渉として自由です。しかし、あくまでもこれまでの建物賃貸借の継続として新しい家主がそれまでの家主の地位を引き継ぐという基本が失われないようご留意ください。
もし、これまでの賃貸借契約を一旦消滅させてBさんと改めて新しい契約を結ぶということ(契約の更改)になる場合には、その時点で建物が抵当に入っていないかなどに留意する必要があります(やや専門的ですが、抵当権設定後の賃貸借は3年の短期賃貸借となります、民法395条)。一般に、従来の内容を大きく変更したり、新しい契約条項を盛る場合には、その当否について専門家・弁護士に相談されることをお勧めします。

ホームページへカエル
「借地・借家Q&A」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「新家主が無理な明渡しを要求――どうすれば?」)へ進む