
法のくすり箱
Q、父が先月死亡したため、父名義の土地の所有権移転登記手続をしようと思って司法書士の先生に依頼しました。ところが数日後、司法書士の先生から、他に戸籍上の実子Aがいるので私1人での単独相続の登記はできないとの連絡がありました。Aのことについては、生前、父から聞いたことがあります。父の話では、Aは父の妹が結婚前に出産した子で、Aの将来のことを考えて父と亡母の子として出生の届出をしたそうです。私は、どのようにすれば、私の単独相続による土地の所有権移転登記ができるのでしょうか?
A、相続による移転登記をするためには、あなたのお父さんの戸籍謄本や除籍謄本などを添付して登記申請手続が行われます。この申請のための書類を収集する過程で、司法書士の先生が、戸籍に実子Aが記載されていることを発見したのだと思います。戸籍に実子Aが記載されている限り、外見上はAも相続人の1人となるわけですから、あなた単独名義の土地所有権移転登記をすることはできません。
もっとも、その土地をあなたが単独で相続することについてAと話し合いができれば、その旨の遺産分割協議書を作成して、あなたの単独相続の移転登記をすることが考えられます。
問題は、Aがあなたの要求を受け入れず、Aもあなたと同じく父の実子であるとして相続分を主張する場合です。
しかし、あなたのお父さんの話がほんとうであればどうかご安心下さい。「戸籍上の実子」の届出がなされた経緯が何であっても、戸籍上の子とあなたのお父さんとの間に自然的父子関係が認められなければ、裁判により、戸籍を訂正することができるのです。たとえ、養子縁組の届出に代えて「戸籍上の実子」として届け出たのだとしても、最高裁判所は、「戸籍上の実子」の届出に養子縁組届出の法的効果を認めていません。つまり、正式な縁組手続をした養子なら実子と同じ相続権を持ちますが、Aの場合のように偽って実子として届け出られたときは相続権がないわけです。したがって、戸籍の訂正をして「実子A」の記載を抹消し、戸籍の記載からみるとAが相続人である状況を消滅させることが必要です。
そこで、戸籍上の子の記載を抹消する方法ですが、家庭裁判所に親子関係不存在確認の調停申立をすることが考えられます。この調停申立にAが同意して調停が成立し調停調書が作成されると、この調停調書の謄本を市区町村役場に提出して「戸籍上の実子A」の記載を抹消訂正することができます。これで、あなたの単独相続の所有権移転登記ができることになります。
次に、家庭裁判所の調停が成立しなかった場合には、あなたは、今度は地方裁判所に、Aを被告とする親子関係不存在確認の訴えを提起することになります。この訴訟であなたの請求が認められると、この判決謄本を役場に提出して「戸籍上の実子A」の記載を抹消訂正することができます。これで調停の場合と同様にあなたの単独相続の所有権移転登記ができることになります。
最近では、従来の血液鑑定のほかにDNA鑑定など、親子関係の鑑定科学も発達していますし、あなたの周りにもお父さんとAとの関係について知っている人が何人もいると思いますので、それらを十分に調査しつつ、まず話合うのがよいか、それとも調停・裁判の手続を取るのがよいのかを検討してみて下さい。

ホームページへカエル
「相続問題Q&A」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「ほんとうの親が死亡――戸籍がちがうと相続できない?」)へ進む