
法のくすり箱
Q、私の友人AはB株式会社を経営しており、むろんB社の代表取締役です。私はAからB社の新規事業への協力を求められ、虎の子の2000万円を貸付けました。しかしあとでわかったことですが、B社はそれまでにすでにかなり無理な経営をしてきており、まもなく多額の借財をかかえたまま支払不能の状態に陥りました。友人のA個人は相当の資産を持っているのですが、私を避けるばかりで誠意がありません。B社に貸した金ではありますが、友人Aにも貸金の返還を請求できないでしょうか?
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- A、まず一般的な回答としては、あなたの友人AがB株式会社の取締役であっても、AとB社とは人格的に別物であり、したがってAはB社の債務とは無関係であるということです。
しかし商法はとくに債権者保護の立場から、取締役がその職務執行に悪意または重大な過失があったときには、債権者に対して、会社と連帯して直接責任を負担しなければならないと定めています(266条の3、有限会社の場合は有限会社法30条の3)。取締役の故意又は重大な過失としては、たとえば@すでに会社の経理状態からみてはたして決済できるかどうかの判断ができないにもかかわらず手形を振出して商品を仕入れたり、金銭を借入れる、A会社が代金を支払う能力がないことを知りながら多量の商品買入れを行う、B調査不十分な事業に対し資金の回収が可能であると軽率に考えて多額の投資を行い会社の破綻を招く、などの場合が考えられます。このような規定によって救済されるために、取締役Aの故意又は重大な過失についてできるかぎり調査する努力が肝要です。
ところでまたこの設問のケースでは、法人格否認の法理により、法的にB社とは別人格者であるAに責任追求を行うことが考えられます。この法理は、会社と個人を一つのものであるとするものではなく、会社は会社としての存在を認めながらも、取引の背後にある事実に注目し個人財産への責任追求を求めるものです。個人企業が株式会社になり店主がその会社の代表取締役になった場合(法人成り)に、会社名義で取引を続けながらも実質的には個人の利益を図り、会社は適当に倒産させるなどしておいてしかも代表者個人は会社とは別個の人格であるとして責任の免脱を図るようなケースにおいて、取引の背後にある実体は代表者の個人営業であったことを主張して個人に責任を問うことができるとする考え方です。
会社がまったく形だけのものにすぎない場合又はそれが税金の軽減など法律の適用を避けるために濫用されている場合に判例はこの法理を適用して個人の責任追求を認めており、いわゆる法人成りの場合にはこの法理を適用して代表者個人の責任追求を認めた判例が少なくありません。
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