法のくすり箱


、知人に頼まれお金を貸すことになりました。一応、保証人は立ててくれると言っていますが、やはり不安です。人から公証役場で公正証書にした方がよいとも聞きましたが、何か大仰な気がして躊躇しています。公正証書にするとどんな利点があるのでしょうか?

、公正証書というのは、契約書や遺言書など私的な権利に関する事実について、公証人と呼ばれる人達が作成した書面をいいます。
 公証人というのは、長く判事や検事などを勤めた経験のある法律家の中から法務大臣が任命するもので、主要な都市には必ずおかれている公証役場で執務しています。このように公証人は法律のプロであり、しかも公証人法や同法施行規則などで公正証書の作成手続についてはくわしい定めがあり、公証人は各地の法務局に所属して公務員に準ずるような地位にあるわけですから、公正証書として作成された文書にはきわめて高い証明力が与えられています。
 たとえば、私的に作った契約・遺言などでは、法的にほんとうに有効かどうかは素人では十分判断できません。また、改ざん・紛失のおそれが常につきまとい、たとえ書面があったとしてもその成立をめぐり往々にして裁判で争われているのが実情です。しかし、公証人に作成してもらえば、当事者の意思の確認はもちろん、その内容が法的に有効かどうかも含めてチェックされますので、債務者にとっても、不当・違法な要求がなされないということで安心です。また、作成された公正証書は公証役場で20年間にわたり責任をもって保存され(履行期限などを定めた証書については期限満了の翌年から10年)、利害関係人であれば謄本の交付が受けられますので、証拠としてこれほど高い信頼性をもつ文書はないといえましょう。しかも、公正証書の作成手数料はとても安価です(参照)。

国が定めた公正証書作成手数料
目的の価額手数料
100万円まで5,000円
200万円まで7,000円
500万円まで11,000円
1,000万円まで17,000円
3,000万円まで23,000円
5,000万円まで29,000円
1億円まで43,000円
以下超過額5,000万円ごとに
3億円まで13,000円、10億円まで11,000円、10億円を超えるもの8,000円加算
◎遺言手数料の場合は、
目的の価額が1億円まで11,000円加算された金額となる。

 加えて、あなたのように金銭貸借契約の際には、さらに非常に有効な手段となります。というのは、その公正証書の中に、債務者が返済しないときは直ちに強制執行を受けても異議がないという一文を入れておけば(執行認諾文言)、返済がないときに、督促命令や訴訟という面倒な裁判手続を一切抜きにして、すぐに強制執行することができるのです。当然、連帯保証人に対しても同様に強制執行できます。
 お金を貸されるのでしたら、是非、公正証書にされることをお勧めします。公正証書作成には、債権者・債務者がそれぞれ本人であることを証明する印鑑証明書と実印、あるいはパスポートや運転免許証などを持参して直接公証役場へ出向けば簡単に手続きできます。
 もし代理人を立てるのでしたら、委任状に実印を押して印鑑証明書を添えて提出する必要があります(代理人は代理人本人であることを証明する前記印鑑証明書と実印あるいはパスポートなどの書類が必要)。 もし、あなたがお金を貸す知人が、強制執行認諾の一文を入れるのはもちろん、公正証書として契約を交わすのさえ嫌がるようでしたら、お金は貸さないのが無難でしょう。何か落とし穴があるとも限らないからです。
 また、債務者や保証人に白紙委任状や白紙保証書をもらうと、後々トラブルの元となります。できれば全員が公証役場に出向いた上で、実際に債務を負担し又は保証を行う旨の公正証書を作成するのが一番です。
 なお、公正証書によってすぐに強制執行できるのは、あなたのように金銭貸借など一定の金額の支払い、または他の代替物もしくは有価証券(株券・手形・小切手等)の引渡しを目的とするときに限定されます。ですからたとえば不動産の賃貸借契約において、金銭の支払債務である家賃・地代の強制執行はできますが、金銭の支払いでない不動産明渡しについては公正証書で強制執行はできませんのでご注意下さい。
 ちなみに、10月1日〜7日は公証週間です。公正証書作成手続の相談は無料ですのでご活用下さい。

[督促命令]
 債権者からの一方的な申立に基づいて裁判所が債務者に出す命令。訴訟に比べ取り立てが簡単・迅速に行える。ただし、金銭の支払いや有価証券・一定の品質のものの交付を求める場合に限られ、土地や建物の明渡し等はできない。
 その手続であるが、まず債権者は、債務者の住所地の簡易裁判所に督促命令申立書を提出。これに応じて裁判所から債務者に対して「命令送達の日から2週間以内に異議を申立てないときは債権者の申立てによって仮執行の宣言をする」という警告つきの文書(督促命令)が出される(この2週間の期間内に債務者が異議申立をすれば訴訟に移ることになる)。
 2週間たっても異議申立もなくしかも債務が支払われないときは、債権者は簡易裁判所に今度は仮執行宣言申立書を提出(もし債権者がこの申立を30日間しないで放っておくと、督促命令は効力を失う。)し、これにより裁判所から債務者に仮執行宣言付支払命令が出される。
 これが届いて2週間以内に債務者が異議申立をしなければ、督促命令は確定判決と同じ効力をもつことになり、本執行(強制執行)が行われる。
(民事訴訟法382〜397条)
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