
法のくすり箱
Q、妻子ある男性とつきあい、子供ができました。もとから彼の家庭をこわすつもりはなく、彼のお嬢さんが結婚したら子の認知をする、それまでは私の方からも認知を請求しない旨、お互いに確認しました。彼はきちんと養育料を出してくれますし、現実の生活に不満はないのですが、子供もだんだん大きくなり、やはり不安になってきました。認知された子とされない子ではどんな違いがあるのでしょうか?
A、「認知」が行われることにより、父と子はお互いに扶養の義務と相続の権利をもつことになります。この「認知」は、父が役場に届け出て父の戸籍及び子の戸籍(母の戸籍に入れられている)の両方にそれぞれ「認知」の記載がなされて初めて効力をもち、しかもその効力はこの出生にさかのぼります(民法784条)。いくら父であると公言したり、あなたのように一筆書いてもらっているような場合でも、「認知」がなければ法律的には親子関係は一切ないものとして扱われます。
そこであなたの場合も、今は養育料がきちんと支払われていますが、これが滞るようになったり、あるいは不幸にも遺言を残さず彼が急死するようなことでもあれば、ただちに困った問題が生じるでしょう。やはり、子供のことを考えるなら彼にできるだけ早く認知してもらうことです。
認知されれば、法的に扶養の義務が生じますし、非嫡出子(婚姻外の子)として嫡出子(配偶者との子)の2分の1の相続権が発生します(900条)。
この認知請求権は、たとえ手切れ金をどんなにたっぷりもらっていようと、あなたのように養育料をもらい認知請求しないと一筆入れていようと、放棄できる性質のものではないと一般に考えられています。なぜなら、子が親を知りたいという権利を奪うことはできないからです。そしてひとたび認知されたなら、たとえ脅迫によるものであろうと、だまされたものであろうと、それが真実の親子であるなら取り消すことはできないとされます(785条)。
彼とよく話し合ってみて下さい。ふつう、「認知」の手続きは彼が役場に所定の認知届を出すだけです(戸籍法60条、任意認知)。子は従来どおり母の戸籍にあって母の氏を名乗りますし(父の欄が記入される)、父の戸籍には認知した旨の記載が行われます。もし彼の戸籍に認知が記入されることが問題であれば、「転籍」により認知の記載を消す方法もあります(「そよ風」53号法のくすり箱参照)。
もしこの任意認知が無理なようなら、親権者であるあなたが家庭裁判所に調停を申し立てます。もし仮に彼が自分の子であることを真っ向から争うような場合には、さらに地方裁判所に認知請求の裁判を起こすことになります(民法787条、強制認知)。このような場合、血液型や骨相学など自然科学的な諸検査(100%違うとはいえるが、100%親子とはいえない)に加え、出産費用や養育費を負担したとか、子を抱いて父親としての愛情を示した等々の各種の状況証拠に基づいて判決が下されます。
また、遺言によって認知する方法もありますし(781条2項)、彼の死後、検察官を被告にして死後認知訴訟を裁判所に起こすことも可能です(死亡の日から3年以内、787条)。
なお前述のとおり、認知によって相互に扶養の義務・相続の権利が生ずるわけですから、常に子の方が一方的に得をするものではありません。認知された子には父を扶養する義務が生じます。そこで、何ら養育料も支払わず年老いてから扶養を迫ってくるような不心得な父親に対処するため、子が成人に達しているときには、認知するにも子の承諾が必要とされます(782条)。

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