
法のくすり箱
Q、私はホテルマンになりたいのです。高校卒業後はホテルに勤めるための専門学校に行きたいと思っています。しかし親は、ホテルマンなんてつまらない、家業を継げとうるさく言います。あげくは、あとを継がないなら勝手に家を出ていけと怒鳴ります。親が私の職業選択にまで口出しするのは、親の権利の濫用だと思うのですが、いかがでしょうか?
A、たしかに憲法で職業選択の自由は保障されています(22条1項)。しかし、あなたはまだ高校在学中で成年には達しておられないようす。未成年者(20歳未満)というのは、何といっても社会経験に乏しく、判断力を含め心身ともに未熟な存在であるため法的にさまざまな保護規定がおかれています。そしてこれを行使するのが親なのです。親は、未成熟の子供を保護し養育する権利と義務を有し、親権として民法では、次のようなものを定めています。
(1) 監護・教育の権利及び義務(820条)
(2) 子の住居を指定する権利(821条)
(3) 懲戒する権利(822条)
(4) 子の職業を許可する権利(823条)
(5) 子の財産管理の権利及び義務(824条)
(6) その他身分上の行為を代理する権利など(775条外)
あなたはホテルマン養成学校へ進学したいとのことですが(1)のとおりご両親には教育の権利があります。といっても、これは子を健全に養育する義務を実現するために行使すべきものとされ、その性質上からも子に強制できるものではありません。つまり、親が子を裁判所に訴えて「大学に行って家業を継げ」という判決をもらうことなどはできないと同時にまったく無意味でしょう。
また親はこの住居を指定する権利はあっても、子に「出ていけ」と命ずる権利(たとえば「勘当」)はなく、親には子を監護し扶養する義務があります。とはいっても、あなたは高校も行かせてもらっているようですが、教育費について、親には高等教育に要する費用までの負担は要求されていないのです。つまり、どうしてもということであれば、自分で学費を出す覚悟は必要です。
もし、すぐにでもホテルで働こうとすれば、前記(4)の規定、親には子の職業を許可する権利があります。これはけっして職業選択の自由を制限するものではなく、まだまだ未成熟な子を不当な使用者などから守るためのものです。ですから、逆に親が子を、子の同意なく働かせること(出演契約など)も許されません(824条)。また労働基準法でも、親が子を働かせて食い物にするのを防ぐため、きびしい基準があります。たとえば、労働契約はあくまで未成年者と直接結び親が代行できないとか、未成年者に不利であると認める場合のみ親は契約を解除できるとか、賃金も直接未成年者本人に手渡すことなど(58・59条)。
いろいろ言いましたが、ご両親はあなたのことを考えていると思います。あなたをこれまでに育て、あなたの性格や能力を一番よく知っている人たちでもあります。もう一度素直な気持ちでご両親の意見に耳を傾けて、よく検討なさってはいかがでしょうか。そしてよく話し合ってみて下さい。

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