法のくすり箱
Q、小さな会社に経理事務の仕事をするということで雇われました。ところが、女は私一人ということで、社長をはじめみんなのお茶汲みや掃除・電話番その他すべての雑用をさせられ、あげくは社長の昼食をあたためたり、お弁当箱を洗うことまでさせられました。がまんできず、改善してくれるよう申し入れたところ、そんなことを言うなら明日から来なくていいと言い渡されてしまいました。こんな不当なことは許されないと思うのですが、どうすればよいでしょうか?
A、まず、民法では雇用契約について、臨時工や季節工などのように期間を区切ったもの以外は、雇主・労働者とも、いつでも自由に解約を申し入れることができ、2週間たてば雇用関係は終了することと定められています(627条1項)。つまり、雇主には「解雇の自由」が認められており、これは書面によらなくとも口頭で十分ですし、解雇の理由を明らかにすることすら法的には必要ありません。
といっても、労働者は雇主にくらべずっと弱い立場にあるわけですから、両者からの解約(雇主からの解雇と労働者からの退職)を同一に扱うのは無理があります。そこで弱者である労働者を守るために、解雇については次のような制限がもうけられています。
まず第一に労働基準法による制限で、雇主は解雇する少なくとも30日前に予告をするか、さもなければ30日分以上の平均賃金(予告手当)を支払わなければならないことが義務づけられています(20条1項)。これに反すれば刑事上の制裁(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられます(119条)。このほか、労務災害による休職者や妊産婦についての解雇制限規定もあります(19条)。
また労働組合法では不当労働行為としての解雇に制限を加えていますし(7条1・4号)、法とは別に、労使間で結んだ労働協約や会社としての就業規則にとくに定めがあればこれに従うことになります。
そしてたとえこれらの規定すべてに引っ掛からなくとも、解雇権も権利のひとつである以上濫用はゆるされず(民法1条3項、権利濫用の禁止)、最終的には相当事由(もっともな理由・合理的な理由)があるかどうかが争われることになります。〔これに対して、離婚や借地・借家の立退きでは正当事由(やむをえない理由)があることが必要とされるが、解雇はこれほどきびしい理由は必要とはされない〕
さて、あなたの場合、雇われる際に仕事内容はどの程度確認されたのでしょうか。もし「ときどきは……」などとあらかじめ申し渡されていたならば、ある程度の家事労働はやむをえないかも知れません。しかし文字どおり「経理事務」のみの約束であり事前になんらの説明もなかったのなら、当初示された労働条件に違反しますし、ましてや「女だから」ということで一方的に押しつけられるのでは法の下の平等をも侵すものです。
したがって、あなたがこれに抗議し、お茶汲みや掃除を当番制にするなど待遇改善を要求するのは当然のことで、これをもって解雇の相当な事由となることは決してありません。
とはいっても、あなたがこのまま黙って解雇を受け入れ、明日から出勤せずに2週間がたってしまえば、おそらく社長は「退職勧告」をし、あなたがこれに実質「合意」した「円満退職」であったと処理されてしまいかねません。
そこであなたとしては、続けてその職場で働くかどうかの決心をしてください。もしこのまま働きつづけても…ということであれば、労働基準法に基づいて社長に解雇予告手当を要求することです。もしこの予告手当が支払われないようなら、所轄の労働基準監督署に出向き実情を申し立ててください。労働基準監督署は、労働者個人と雇主との間で労働法に基づいてトラブルの解決をはかります。また労働者が労働基準監督署へ申告したことを理由に解雇その他不利益な取扱いをすることも禁止されています(労基法104条2項)。
もしあくまでその職場で働き続けたいのなら、裁判所に地位保全の仮処分の手続きをとることもできます。これは裁判所に現状維持の命令を出してもらう方法で、解雇の無効を主張して、とりあえず社員としての地位の確認をしてもらうことができます。しかしこの地位保全の仮処分は、相当の期間(長い場合には数年)を要することが難点です(仮処分についてはそよ風51号参照)。
最後に、もし職場に労働組合があるなら、ここに相談することも忘れてはなりません。

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