
法のくすり箱
Q、私の夫は3年前に死亡しましたが、その後も同居していた義父の面倒を引き続きみています。私が働きに出ていますが、子供も2人いるので経済的に苦しい生活です。夫には姉と2人の弟がいて、それぞれゆとりのある暮らしぶりですが、義父の世話については少しも援助してくれません。私ひとりに義父を養う義務があるのでしょうか?
A、嫁であるあなたの場合、当然には亡夫の父(しゅうと)を扶養すべき義務はありません。家庭裁判所が、あなたに対して、扶養義務を負わすに足る特別の事情があると認めたときに限り、あなたは扶養の義務を負うのです。したがって、しゅうとに対する現在の扶養は、親族間の情誼によるもので、それ自体美しい立派なことではありますが、法律上の義務ではありません。
民法は、当然に、お互いを扶養する義務のある者として、直系血族(祖父母・父母・本人・子供という縦の血族関係)および兄弟姉妹とをあげています(民法877条1項)。そして、これらの血族や兄弟がないか、あってもそれらの者に扶養する能力が十分でない場合には、さらに扶養義務を負わせるに足りる特別の事情が認められるときに限り、家庭裁判所は審判によって、3親等内の親族(おじ・おばとおい・めい、舅・姑と婿・嫁、連れ子など)にも扶養の義務を負わせることができるとしています(877条2項)。たとえば、今までとくに世話になり援助を受けてきた、家計をひとつにして一緒に暮らしてきた、家業を受け継いだ、などがこの特別な事情として考えられます。
したがって、あなたの義父の場合も、まずは実子である姉と2人の弟に扶養の義務があります。そして、義父と生活を共にしてきたあなたにも扶養義務がないわけではありません。しかし、自分の子供を育てて生活を保持する義務の方が優先されているので(820条)、2人の子供をかかえて大変な今のあなたが義父の扶養義務までも負うことはありません。ですから、現在のようにあなたひとりに義父の世話を押しつけて実子は知らん顔しているというのは、倫理的にはもちろん、法律的にもまちがっています。
とにかく、姉と2人の弟に義父の扶養を要求してみて下さい。なんといっても親の扶養義務は第一に子供にあるのですし、3人とも余裕のある生活ぶりのようですから、各人の資力や生活事情に応じて誰が義父を引き取るのか、どの程度の扶養料を負担するのかなどを協議してもらって下さい。それでもまだ話がまとまらず、あなたひとりに責任を負わせようとするなら、家庭裁判所に扶養の申立てをして下さい。調査の結果、適切な審判を下してくれるでしょう(879条)。
また、夫が亡くなったのだから夫の親族とはもう縁を切りたいと思うなら、市区役所・町村役場に「姻族関係終了届」を出せば親族関係を終わらせることができます(民法728条2項、戸籍法96条)。これには、夫の親族の同意は必要なく、いつでも届け出ることができます。親族関係がなくなれば、家庭裁判所によって扶養義務を負担させられることも、当然なくなります。
結婚生活も長くなると、夫や妻の身内との係わり合いが深くなり、相手が亡くなったからといってそれまで同居していた親や兄弟とたやすく縁が切れるものではありません。しかし、あなただけに犠牲を強いて自分たちは安楽に過ごすようなことは許されるものではありません。泣き寝入りせずに、姉や弟たちとよく話し合って下さい。
[ことば欄]
☆親等
親族関係の遠近をはかる単位。親族は、血縁のある血族と、婚姻によって生じた姻族からなり、親・子・孫など縦のつながりを直系親といい、おじ・おば・いとこなどのつながりを傍系親といい、自分より上の世代を尊属、下の世代を卑属という。親等の計算は、直系親の場合は、単にその間の世代の数がそのまま親等の数となるが、傍系親の場合は、その者から共同の始祖にさかのぼり、その始祖から他の者に下るまでの世代の数を合算する。なお、配偶者相互は親等のない親族であり、姻族の親等は配偶者を基準として同様の方法で計算する。
法律上の親族の範囲(民法725条)は上図のとおりであるが、日常用語として親族というときには、普通もっと広い範囲(配偶者のめいの子など)を含む。

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