
法のくすり箱
Q、事業を始めようと思うので、資金の融資を受けたく思います。しかし担保になるようなものがありません。ついては、一昨年亡くなった親の唯一の遺産である不動産が登記もせず放置したままですので、これを相続登記し、自分の持ち分を担保に入れようと思ったのですが、兄弟がいい顔をしません。自分の持ち分だけを担保に入れるので、誰にも迷惑はかけないのですが、1人で登記はできないものでしょうか?
A、民法に定められたように親族で分けあう法定相続をする場合には、相続人の1人が代表して相続人全員のために登記申請をすることができます。つまり、あなた1人で相続登記をすることは可能です。この際、ご兄弟の委任状なども必要ありません。
ただ、相続関係を立証する書類が必要で、被相続人が確かに亡くなったことを証する戸籍謄本、さらに被相続人の配偶者・子のすべてが記載されている戸籍謄本や除籍謄本(結婚独立して別戸籍になった者を含み、すべての親族関係がわかるようにする)、そして共同相続人の現住所を証するための各自の住民票を添付する必要があります。
これらを揃えれば、あなた1人で登記申請ができます。登記の内容は、各自の持ち分を表したものとなります。たとえばあなたのお父さまが亡くなられ、お母さまは存命でご兄弟が3名の場合なら、お母さまの持ち分2分の1、ご兄弟それぞれの持ち分6分の1という具合に表記されます。
しかし、ここで考えて頂かねばならないのは、あなたの目的は共同相続の登記そのものではなく、あくまでお金の融通をつけるということのはずです。しかも、金融機関は、共同相続の持ち分だけを担保に入れるという形ではなかなか融資はしてくれるものではありません。というのも、融資の返済が滞った場合の競売手続きなどが実効性を失いやすくしかも煩雑なものとなるため承諾しないのです。
あなたのようにお金を作ること自体が目的ならば、ご質問のように共同相続登記をして……と考えるよりも、より現実的な方法としては、かえって、当該不動産の相続を放棄するかわりに自分の持ち分に応じたお金を融通してもらえないかとご兄弟にご相談なさるのがよいかと思います。
それでご兄弟の話し合いがつけば、あなたは、持ち分を放棄し(普通、相続分のないことの証明書をつくります。司法書士・弁護士などにご相談下さい)、あなたを除く相続人たちは、必ず、この機会に、全員で遺産分割協議書を作成し、これに基づいて不動産を登記し相続手続きを完成させることになります。そうしておかなければ、後日、あなたが、お金だけ借りて、気が変わりまたぞろ相続分を主張するようなことになると大変だからです。

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