
法のくすり箱
Q、分譲マンションに転居しましたが、これまで庭付きの家に住んでいたせいか、何かもの足りない気がして、せめてベランダを広くしようと思い立ちました。さっそく準備に取りかかったところ、ほかの部屋の住人から「外観をそこなう工事は困る」と苦情を言われました。自分が所有する部屋のベランダなのに自由に改築することもできないのでしょうか?
A、マンションのように、1棟の建物が構造上いくつかの部分に独立していて住居などとして所有されている場合、それぞれの所有者を区分所有者といいます。そして、1人の区分所有者が所有・使用できる各人の部屋などを専有部分、みんなの共有で使用する玄関のホール・廊下・エレベーターなどを共用部分といいます(建物の区分所有等に関する法律1・2・4条)。ただし、その規定は抽象的で明確な基準が設定されていないので、具体的な事例においては判断に迷うことも少なくありません。たとえば、壁紙を張り替えたり、古くなった畳を入れ替えたりする程度はもちろん各人の自由です。しかし、住宅として購入した部屋を店舗に改装したり、1階の住人が床下を改造して地下室を作ったりすることは、いくら自分の部屋であってもできません。
では、ベランダやバルコニーについてはどうでしょうか。ベランダにもいろいろな形態がありますが、一般には、普段はその部屋の住人しか利用しないが、構造上はボード一枚で間仕切りしただけで隣家と続いており、火災などの非常時には避難路として使用するといったものが多く見られます。これまでの裁判例では、この点を重視してベランダは共用部分であるが、ただし使用についてはその部屋の住人の専用であるとしています。
隣家と接しておらず、その部屋の住人しか出入りできないベランダなども一律に共用部分とみなすかどうかは疑問の余地のあるところですが、だからといって自由に改築できるかどうかは別問題です。ベランダの構造それ自体が建物の外壁の一部となっているので、やはり共用部分と考えるのが妥当でしょう。共用部分の構造を変更するにしても、区分所有者全員の便利さを増すためのものであって、あまり多額の費用を要しないならば、共用部分の改良ということで全区分所有者の過半数の同意を得ればよいことになっています(18・39条)。しかし、あなたのように自己利用のためという理由での改築は改良とはいえないので、全区分所有者の4分の3以上の承認を得なくてはなりません(17条1項)。
また、区分所有者は建物の保存に有害な行為をしてはならない(6条1項)ので、外壁の一部となっているベランダを改築することは建物全体としての美観を害する行為として禁じられていると判断すべきでしょう。したがって、あなたが言われるように「自分が所有する部屋のベランダ」であっても、勝手に改築することはできないのです。
もし、あなたがこのまま誰の同意も得ずにベランダの拡張工事を進めれば、ほかの住人あるいは管理組合の申立てによって裁判所から工事禁止の仮処分の決定が出るものと思われます。また、建物を破損したりすればその損害賠償の支払を請求されることにもなりかねません。マンションは大勢の人が集まって住んでいるのですから、なにごともほかの住人の賛同を得てから行動しないと、あとあとまでもめごとが絶えなくなるので自分勝手な行動はつつしむべきでしょう。
ちなみに、最近はやりのガーデニングのためにベランダに植木やブロック等を置くといった程度のことは、ベランダの構造を変更することにはあたりませんので、上述のような規制はなく、住人の自由な改変が可能です。
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