
法のくすり箱
Q、23歳になる私の娘は、昨年末居眠り運転の車に跳ねられて大ケガをし、幸い命はとりとめたものの顔に大きな傷あとが残ってしまいました。そのため今春に控えていた結婚も破談になり、親子ともども悲嘆にくれています。事故の加害者をいくら恨んでも恨みきれません。娘はもちろん、私たち両親の受けた精神的ショックの分まで加害者に慰謝料を請求することはできないものでしょうか?
A、同じ傷あとが残るにしても被害者が男性か女性かによって受ける影響はかなり違ってきます。法律の上でも女子の容貌は男子に比べて高く評価されています。自動車事故の損害賠償に適用される自動車損害賠償保障法で定められている後遺障害別等級表(第1〜14級)では、「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」は第7級、「女子の容貌に醜状を残すもの」は12級にランク付けされているのに対し、男子はおのおの12級、14級となっています。また、同じ女性であっても年齢や結婚前か後かなどによって受ける損害の程度に大きな差があるでしょう。娘さんの場合、結婚前の適齢期であって、しかも事故による傷あとが原因で目前に迫っていた結婚がダメになってしまったのですから、本人にとってもご両親にとってもこれ以上ひどいショックはないでしょう。
当然、娘さんとしては加害者に損害賠償を請求することができます。入院費・治療費・付添費など事故のため実際に支出した損害、もし勤めていたのなら休業期間中にカットされた給与の損失等です。そして後遺障害によって生ずる将来的な不利益(逸失利益)を財産的損害として請求できます。労働能力の低下で所得が減少するような場合(重役秘書から配置換えされた、営業セールスで好成績をあげていたのに内勤事務になったなど)はもちろん、その後の社会生活上のあらゆる不利益を総合的・具体的に考慮して計算します。さらに、事故によって受けた傷害や後遺障害に対する精神的な慰謝料ももちろん請求することができます。
ただし、両親が受けたショックの分まで慰謝料請求できるかどうかは問題のあるところです。被害者が死亡したときは近親者が慰謝料を請求できます(民法711条)し、死亡でなくても重度の後遺障害が残るなどで死亡と同じぐらいの精神的苦痛をこうむったときには近親者に請求権が認められます。ですから、あなたがた両親もこの枠に当てはまると裁判で認定された場合には、親として別途慰謝料を請求できるわけです。しかし、どういった判断が下されるかはケースバイケースなので一概にはいえません。
* * *
ところで、傷あとが残ったこともさることながら、それを理由に結婚を断られたことが娘さんにより大きな痛手を与えたものと思われます。婚約というのは将来結婚するという約束ごとであって法律上の規制はないので、結婚を強制することはできません。しかし、正当な理由(不品行でほかにも異性関係がある、精神病などの重大な病気を隠していたなど)もなしに一方的に婚約を破棄された場合は、相手に損害賠償を請求することができます。傷あとが残って容姿が悪くなるから、というのでは正当な理由とはいえませんから損害賠償を請求してみてはどうでしょうか。精神的苦痛に対する慰謝料のほか、婚約によって実際かかった費用(嫁入道具の購入・結婚式場の予約金など)も請求できます。
容貌はその人のトレードマークともいうべきもので、その印象が社会生活の上で有形無形の影響をもたらしているのは否めません。こうした中で、娘さんとしてもなかなかショックから抜けきれないことと思いますが、少しでも早く立ち直って前向きな姿勢で臨めるようにがんばってほしいものです。

ホームページへカエル
「損害賠償Q&A」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「駐車場内での事故とその責任」)へ進む