Ａ、たしかに「公正証書」は、一般に契約を結ぶ場合には多く利用されています。「公正証書」にしておけば、内容を改ざんしたりできませんし、何より第三者（公証人）の前で作成しますので、当事者も慎重になり、後日の紛争を防ぐ効果は大きいようです。しかし、公正証書は、お金の支払いに関する約束ごと（貸金や売掛金など）についてだけ不払いに対して裁判をせずに強制執行手続きができるというものであり、土地の明渡しを求める権利を実現させるような場合には使えないことにご注意ください。
　ですからあなたのように、１年後に建物を壊して土地を明け渡すという約束を「公正証書」にしても、もし借地人が期限を過ぎて土地を明け渡さないときには、すぐに強制執行をするというわけにはまいりません。改めて裁判を起こして判決を得るなどしなければならないのです。公正証書をつくっていたことが裁判での有力な証拠になるにしても、手間がかかり、いやな思いもしなければなりません。
　こんなときには、簡易裁判所にいって「即決和解」を結んでおくことが賢明です。
　即決和解とは、現在の紛争（この場合でいえば、明渡し及びその時期について争いがあることになります）につき話合いが成立したとき、これを裁判所で和解調書としておくことです。
　具体的な手続きとしては、相手方の住所地の簡易裁判所に和解申立書を提出します（１５００円の収入印紙を貼る）。これには当事者双方の表示、請求の趣旨と原因、争いの実情を記載します。そして当該物件の物件目録と和解条項を添えて出しますと、裁判所は期日を定めて当事者を呼び出し、その場で双方の和解の意思を確認します。そして合意成立が認められれば、和解条項を記載した和解調書が作成され、手続きは終了です。この和解調書は確定判決と同一の効力をもっています。こうすれば、後日借地人が期限がきても土地を明け渡さないときに和解調書に基づいて強制執行ができるのです。
　ただ、「即決和解」の申立は、できれば弁護士に委任されたほうがよいでしょう。

〔例文〕


和解条項 　申立人と相手方とは、両者間の別紙物件目録記載の土地についての賃貸借契約を、本日限り合意解除する。 　申立人は相手方に対し、平成○年○月○日まで前記土地の明渡しを猶予する。 　相手方は申立人に対し、前項記載の期限までに別紙物件目録記載の建物を収去して前記土地を明け渡す。 　相手方が申立人に対し、前項記載の期限までに建物収去土地明渡しを完了しないときは、相手方は申立人に対し右期限の翌日から完了の日まで、一日につき金○○○円の遅延損害金を支払う。 　当事者双方は、前記土地の明渡しにつき、本和解条項のほか、何ら債権債務がないことを確認する。 　和解手続費用は各自の負担とする。

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