
法のくすり箱
Q、一昨年の春、友人の息子がある会社に営業社員として入社するにあたり、身元保証人になりました。ところがその後経理課に配属された彼は多額のお金を使い込んでしまい、会社は私に損害賠償を請求してきました。私は全額支払う義務があるでしょうか?
A、親類や友人の子供の身元保証人になってほしいと頼まれると、身元保証とはどんなものか深く考えずに好意から簡単に引き受けることが多いのではないでしょうか。
身元保証とは、あなたと雇主との間で行われる契約です。雇われた人(被用者)が雇主に損害を与えた場合それを賠償する責任を負う旨の約束ですから、気軽に身元保証人になると、ときには「こんなはずではなかった」と後悔することになりかねません。
もっとも身元保証人の責任があまり重くなりすぎないように保護するため、「身元保証ニ関スル法律」によって責任の範囲が限定されています。まず保証期間は、特に定めがなければ契約後3年間(商工業見習者は5年間)で、仮に期間を定めるにしても5年を超えることはできません(2条)。また、被用者に仕事の上で不適任・不誠実な行跡がありそのために身元保証人に責任を生ずるおそれがあるとき、または、被用者の任務または任地を変更しそのため身元保証人の責任が加重したり従来どおり監督できなくなるような場合は、遅滞なく身元保証人に通知する義務を雇主に課しています(3条)。そしてこれを受けた保証人は、契約を解除して以後の責任を免れることができます(4条)。負担すべき賠償額については、通常の金銭貸借の保証人ならば借主本人と同額の支払義務がありますが、身元保証人の場合は全額責任を負うことはありません。雇主の管理・監督上の過失、身元保証にいたるまでのいきさつ、被用者の職務内容の変更とそれを知っていたか否か、といった諸般の事情を斟酌したうえで身元保証責任額が決められます。
さて、あなたの場合、身元保証人になったのが2年前なのでまだ責任期間内にあり、賠償責任があることは事実です。といっても雇主の社員に対する管理・監督が不十分だったためこんな事態になったともいえますし、もし友人の息子の配属変更の事実をあなたに通知していなかったならば、それも雇主の不注意であったといえます。ですからあなたとしては雇主の要求に全額応じることはありません。何といっても賠償責任が最も重いのはお金を使い込んだ本人なのですから、できる限り本人に支払ってもらうべきですが(なお、法的には本人の両親・家族には賠償責任はありません)、それで払いきれないときには雇主とあなたとでどのように責任を分けあうかを検討し、賠償額について十分に話し合いましょう。それでも解決がつかない場合は訴訟を提起し、裁判によってあらゆる事情を考慮したうえで具体的な賠償額を決めてもらうのが得策です。もちろん、あなたが負担した金額については後で使い込んだ本人に返済請求することもできますが、本人に資力がなければ事実上求償することは困難です。

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