法のくすり箱
Q、賃貸マンションの規約に違反して隣の部屋では猫や犬を飼っており、早朝からの泣き声や廊下でのふんの臭いに困っています。飼い主に苦情を言っても取りあってくれません。どうしたらよいでしょうか?
A、借家や公団住宅などで、規定に違反してペットを飼っている例は実際には数多くみられるようです。そしてその程度が目に余るものであれば、裁判でも立ち退き判決が出されることもあります。たとえば、公団住宅で猫を10匹以上も放し飼いにして廊下・階段がふん尿で著しく汚れ鳴き声も昼夜に及び、再三の改善申入れに対しても一切応じないような事例で、部屋の明渡し判決が出されました(昭和60年10月22日東京地裁)。このように社会生活上受忍すべき程度をはるかに超えるようなとき(鳴き声で不眠症になる、健康障害が起きるなど)は、マンションの明渡し請求も可能でしょう。しかし、だからと言って、規約に反して犬や猫を飼っているというだけで立ち退きを要求することは現実には難しいと言わざるを得ません。
一方、とくにペットの飼い方について規制した特別な法律というものはなく、主に飼育動物の保護を目的につくられた「動物の保護及び管理に関する法律」が適用される程度です。そして都道府県や一部の市においてこの法律や総理府告示(犬及びねこの飼養及び保管に関する基準)に留意して条例を設けているところもありそこでさらに具体的に規制しているのが現状です。たとえば兵庫県の飼い犬条例には、飼い犬が公園その他公衆が利用する場所を汚したり、他人に迷惑をかけたときは1万円以下の罰金とする(12条)などの規定が設けられています。
さて現実に、ペットのふんの臭いや汚れ、鳴き声によって精神的・肉体的被害をこうむっているのならば、当然損害賠償を請求することはできます。「動物の占有者は其動物が他人に加えたる損害を賠償する責に任ず。但し動物の種類及び性質に従い相当の注意を以て其保管を為したるときは此限りに在らず」(民法718条1項)──隣の家が番犬用として飼っている犬の鳴き声に悩まされ続け、不眠・食欲不振など神経衰弱状態となったケースで適切な管理を怠ったとして30万円の慰謝料の支払いが命ぜられた判例もあります(昭和57年10月25日鎌倉簡裁)。このほか、たとえば丹精こめて育てた植木が近所の猫のふん尿のため枯れるというような場合には、その被害状況や猫のふん尿との因果関係により請求の有無が決まります。
しかし、何といっても隣近所のことですから、一応はまえもって家主や管理人に事情を話して注意してもらうとか、他の住民と相談してもう一度話し合ってみられてはいかがでしょう。そのうえで改善の余地がないなら、民事調停や訴訟の手続きをとることを考えるのが相当です。

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