
法のくすり箱
Q、私はマイカーを自宅に隣接する所有地に駐車していますが、スペースの余裕があるので近くの工務店Aに頼まれて、しばらくということでAの車をおかせてやりました。ところがAは、マイカーを置くだけでなく仕事の材料の積みおろしや一時保管にまでスペースを利用するので、私はAに解約を申入れ、一旦は1週間後に明け渡してもらうことで話がつきました。しかし1週間たっても2週間たってもAは明け渡してくれません。何度も催促するのですが、最近では、3年間は貸してもらう約束だったと開き直るありさまです。実力で閉め出すことは許されないのでしょうか?
A、なるほどあなたはAの駐車場所の所有者ですが、Aもその場所を事実上支配しており占有者であると考えられます。
占有者にはその土地を法律上適法に占有することのできる権原(賃借権・地上権など)がある場合と、そのような権原を有しない不法占有(このケースでも契約終了後は不法占有となっている)の場合とがありますが、いずれにせよ占有権(事実上支配の外形を尊重する制度)の保護がありますから、所有権者による自力救済は許されません。なぜなら、そのような自力救済を許容すれば社会生活の秩序や平穏が著しく害されるおそれがあるからです。国が国有地から不法占拠者を追い出すにも慎重な法的手続きをふむことや自分の時計を他人が所持しているのをみて秘かにこれをすりとった場合に窃盗罪に問われることからもおわかりいただけると思います。
したがって正統的な方法は、裁判所に契約解除や所有権を理由に明渡しを求め、判決により明渡しを実現するやり方です。ただ、裁判は費用と時間がかかるため、極力Aと話し合って解決をはかり立ち退きを実現できればそれにこしたことはないのですが……また話合いの場を裁判所でつくる民事調停という制度がありますので検討してみてください(なかなか話合いができないケースで、この調停制度を利用して幸運に解決した事例も少なくありません)。
ところで極端なケースですが、いきなりあなたがAに立ち退いてもらうと宣言して実力で占有の排除(たとえば車の移動)にとりかかり、Aがあなたの気迫と決意におされてしぶしぶながら明渡しを承諾した、といった明渡し事例も考えられないではありません。しかしこの場合、相手方Aの承諾が任意の同意と評価されるかどうかによって、あなたが裁判所からひとまず原状復帰を命ぜられるかどうかが決まります(任意の同意でない場合、Aは占有侵奪を理由に仮処分という占有権保護の手続きを裁判所へ申請することができます)。こうなると、強迫・暴行等に至りかねないリスクや仮処分や告訴等の法的手続きの採否にかかる緊張関係の中に一時的ではあれ身を投ずることになります。ノーマルな紛争解決法としては推奨できないところです。
より基本的な心得ごとは、最初から書面できっちりとした契約をかわし、双方わがままや誤解を生じないようにしておくことです。生半可な好意がかえって甘えを引出し、紛争の原因になるのはなんともやりきれないことといわざるを得ません。

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