法のくすり箱
Q、当社では慣行として退職金を支払っていますが、額が大きく一括払いが困難なこともあり、分割払いにでもできないものかと思案中です。こういうことは可能でしょうか?
A、退職金制度が慣行としてでも成立している場合、その退職金は労働の対価としての賃金の一部とみなされ、賃金と同じ取扱いとなります。また退職金制度は就業規則中の相対的必要記載事項(定めるか否かは使用者の自由であるが、定めた場合は必ず記載しなければならない事項)の一つでもあり、まだ明確に定められていないのであれば早急に整備する必要があります(くわしくは法のくすり箱「パートと就業規則」参照)。
ところで1988年(昭和63年)の労働基準法の改正で、この退職手当についてはとくに具体的に定めなければならない事項がいくつかあげられました。それは、(1)適用される労働者の範囲、(2)退職手当の決定・計算及び支払(銀行振込や小切手での支払も可能となった)の方法、そして問題となっている(3)支払時期です(89条1項3号の2)。
さてその支払時期ですが、労基法23条1項では「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。」と定めています。しかし実際上、退職手当に関しては、判例で、退職発令後6ヶ月以内に支払うという延払いが認められています(東京地裁昭和35・6・13)し、行政解釈上も、多額のときには1年前後の分割払いにする例は23条に抵触しないという判断が下されています(昭和26・12・27)。つまり、退職金は賃金として取り扱われるとはいえ、功労的・生活保障的な性格をも有する独特のものであるから、労使双方の合意で延払いや分割払いもできると考えられているようです。
ただ注意しなければならないのは、分割払いがあまりに長期にわたる場合は民法上の「公序良俗」に反するとして無効となることがありますし、また就業規則などではっきり支払期日や方法も定めていないときは23条の適用をうけ7日以内の支払いが義務づけられるということです。その点、分割払いにするならできるだけ短期で支払えるよう明確な規定を就業規則の中に盛り込んでおくことが肝要です。
なお、同年(1988年)の労基法改正で、退職手当請求権の消滅時効が、賃金その他と同様の2年だったものから5年へと大幅に延長されたこと(115条)を付言しておきます。これは退職してしまった労働者にとって、その権利行使が難しいことを考慮してとられた措置です。

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