法のくすり箱
Q、会社の経営が苦しく、労働時間の延長・退職金の改定をもりこんだ就業規則の変更をしたいと思います。以前、就業規則は労働者が反対しても変更できると聞いたことがありますが、労働組合が反対した場合もほんとうに使用者が一方的に改定できるのでしょうか?
A、もともと、企業を運営していくうえで労働条件や服務規律を統一的に管理するため必然的に生まれてきたのが就業規則です。判例においても「就業規則は本来使用者の経営権の作用として一方的に定めうる」(昭和27・7・4最高裁判決)とされています。そして実際の手続き上も、労働者の過半数を代表する意見を添付すれば(労働基準法90条)、たとえ反対意見であろうが届出は受理されます(法のくすり箱「パートと就業規則」参照)。労働者側が絶対反対ということで意見書の提出を拒否した場合でも、十分に時間をかけて意見をきいたことが明らかでさえあれば要件は満たしているとして取り扱われているほどです。
しかし一方で、「新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない」(昭和43・12・25最高裁判決)と、既得権を擁護したうえで、「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されない」(同)としています。つまり、一度定めた労働条件はそれを向上させていくのが本筋である(労基署では就業規則を届け出させて労基法に違反しないかをチェックしている)が、「合理的」な理由があれば認められるということです。この判例は具体的には、『定年制』がなかった企業に当時55歳定年を導入するため争われた裁判で、このときには改定された就業規則の効力を認めています。
ところであなたの会社の場合ですが、労働時間の延長は残業手当の減少にもつながり、実質的には労働時間・賃金両面の後退といえます。退職金も、長期勤続に対して支払われる対価として労働基準法上は賃金とみなされていますので、どちらも基本的な労働条件が引き下げられるというわけです。こうした場合、新しい就業規則のもとで新しく雇い入れた従業員については問題になりませんが、少なくとも変更前からの従業員への適用は難しいといわざるをえません。判例でも、「たとえ使用者に経営不振等の事情があるにしても……とうてい合理的なものとみることはできない」(昭和45・5・28大阪高裁判決)、あるいは「その代償となる労働条件を何ら提供しておらず」(昭和58・7・15最高裁判決)、変更の効力は及ばないとされました。
実際問題としては、新規採用者や新規則に同意した者と、反対している者との間に待遇のアンバランスがあるのは会社としても困ることでしょう。やはり労働組合との間でよく話合い、何らかの暫定措置をとるなどして労使間の合意点を見いだすよう努力するのが一番です。

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