[1992(平成4)年8月1日以降の新しい契約には、全面的に新「借地借家法」が適用されます。しかし、それ以前から成立していた契約には、その権利の存続について、旧「借地法」・旧「借家法」が適用されます。本文中、イタリック(斜字)で記した部分は、旧法が適用される古い契約には該当しないのでご注意下さい。]

法のくすり箱
Q、今住んでいる家は、私の父が「一代限り」という約束で土地を借りてその上に建てたものですが、その父が先日亡くなりました。今のところ地主からは何も言ってきませんが、立ち退きを要求されたときはやはり出ていくしかないのでしょうか?また立ち退く際には、建物はこちらの費用で取り壊さなければならないでしょうか?立退料は要求できるでしょうか?
A、「一代限り」の借地契約期限は、不確定でしかも借地人にとって不利であるから無効であると裁判所は認定しています(昭和48年11月28日東京高裁判決)。そしてこうした契約を結んだ場合、借地権の期限については借地法2条1項が適用され、堅固な建物(石・土・れんが造など)なら60年、その他の建物なら30年となります。この扱いは、期限のない契約や短期の期限をつけた契約(堅固な建物で30年未満・その他建物で20年未満)、あるいは地主が立ち退きを要求するまでといった借地人に不利な契約を結んだときもまったく同じようにみなされています。しかも借地権は無条件に相続が認められており、たとえ相続人がその土地に住んでいなくても(あるいは使用していなくても)構いませんし、地主はそれに異議を唱えることは一切できません。したがってあなたの場合も右の期間内なら立ち退く必要はまったくありません。
もしこの期間がすでにすぎている場合は、地主が右期限後遅滞なく更新に異議を申し立てないかぎり、借地人が更新手続き等をとりたててしなくとも自然に契約を更新しているものとみなされます(法定更新、同6条)。このときの借地権の期間は堅固な建物で30年、その他建物は20年となります(同5条1項)ので、やはり立ち退く必要はありません。
さらに、たとえ地主が更新時期に異議を申し立てて立ち退きを迫ったとしても、地主側に土地を必要とする理由や「正当事由」がない限りあなたの更新請求は認められます(新法6条、旧法4条1項)。とくに借地人が営業用としてではなく居住用建物のために土地を借りている場合には、裁判所の判断も地主側にきびしいのが通例です。一方で地主がどうしてもその土地を必要とする事情があり、他方借地人がその土地を出てもやっていける目処がなければ「正当事由」は認められません。しかし、あなたが地代を著しく滞納している場合、あるいは無断増改築をしないとの特約に違反して大幅な増改築をした場合など、あなたの側に債務不履行が認められるケースでは、あなたの更新請求は斥けられる可能性が大と考えなければなりません。
つまり、あなたが現在の家に住んでいてその土地を必要としており、地代もきちんと払っているのなら、特段の事情がない限り立ち退く必要はありません。
次に、あなたが立ち退きに合意した場合ですが、立退料については残念ながら法律上の根拠はありません。しかしあなたが借地権を放棄し地主はその土地を自由に使えるようになるわけですから、話合いで立退料が支払われるのが一般に慣習となっています。この際とりわけ基準のようなものはありませんが、借地権の価格や建物の価格、移転費用などを考慮しながら、ケースバイケースの話合いで決めることになるでしょう。
さらに建物の扱いですが、借地人は地主に建物を買い取ってくれるよう請求する権利(買取請求権)が法律で認められています。これは非常に強い権利で、借地人が請求した時点で地主はそれを買い取る義務を負うことになります。たとえ当初の契約にこの権利を放棄するとか、出ていく際に借地人の負担で取り壊すなどの特約があったとしても、これらの特約は無効とされ、借地人の買取請求権はとくに守られます。つまり、建物をわざわざ壊すという社会的不経済を少しでも防ごうというわけです。ただ、この買取価格には借地権の価格は含まれませんので、裁判所が仲介して交通の便や環境など場所的なものを加味して価格を鑑定したとしても時価より安くなりがちです。さらに、借地人の一方的なつごうで出ていくときや地代を滞納して契約を解除されたような場合には、この買取請求権は認められていません。
ちなみに、これらのことを立ち退きを承諾する際にきちんと決めておかないと、買取請求権を放棄したものとみなされることもありますのでご注意ください。
以上はあなたの場合、すなわち、父親の代からの古い契約で旧借地法が適用される場合に即して回答してきました。これに対して、1992(平成4)年8月1日以降なされた借地契約の場合には新たな「借地借家法」が適用されます。この新法では、借地権の存続期間は一律30年(新法3条)。更新の場合は、最初の更新期間が20年、それ以後の更新は10年ごととなります(新法4条)。つまり、堅固建物・非堅固建物の区別はなくなったわけです。もっとも、この期間より長い期間を契約で定めた場合にはそれによることもできます。一方、更新を認めない定期借地権なども新たに生まれています(くわしくは「借地借家法スタート」参照)。そして、「一代限り」という約束についての取扱いは、新法の3・4条の規定に従い、一律30年、第1回目の更新20年の存続期間が適用されることになります。

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