法のくすり箱
Q、私はある男性と結婚を前提に付き合っていました。そして、相手の希望もあり、会社まで退職し結婚に備えていたのですが、つい先日なんとなく気が進まないからと破談を申し入れてきました。まだ結納を交わしたわけでもありませんが、損害賠償や慰謝料を請求できるでしょうか?
A、わが国では婚約について法的に定められているわけではなく判例や学説で解釈されていますが、形ではなく両者の結婚しようという意思のみが重視されています。たとえ結納を取り交わしていなくても2人が誠心誠意夫婦になろうとしたのであれば婚約は有効に成立したことになります(大審院判決昭和6・2・20)。あなたの場合も会社までやめられたとのことですから、その意思は固く、婚約は成立していると考えられるでしょう。ただ、このように破談等のもめごとが起こったときに婚約が実際に成立していたかを立証するには、やはり口約束だけでは難しいことが多く、手紙の内容や指輪の交換などの事実の存在があれば、比較的容易に立証できます。また当然、父母や友人などの第3者に相手を紹介しておく配慮も必要でしょう。
こうして婚約が成立した以上、両者とも結婚を実現させるように努力する義務を負います。ただ当事者の一方がこの義務に従わなかった場合(婚約不履行)、法律の力で強制する(無理やりに結婚させる)ことはできません。しかし正当な理由がなく婚約を破棄した者に対しては、債務不履行として損害賠償を請求することはできます(民法415条)。
解消の正当な理由とは、学説や判例によると、相手方に不貞な行為があったとか相手方から虐待や侮辱を受けた場合、相手が挙式や届出を合理的な理由なしに延期した場合や、相手の資産収入の状態が極度に悪化し結婚しても経済的にやっていけない場合などです。つまり、婚約者に対する態度が不誠実で結婚の将来が期待されないときですが、どこまでが正当理由になるかはケースごとに具体的に判断されることになります。しかし、単に「年回りが悪い」「性格があわない」「親が反対している」などの理由では、婚約破棄の正当な理由にはなりません。
お尋ねの損害賠償の請求についてですが、婚約のために現実にかかった費用(嫁入道具・婚約披露の費用・仲人への謝礼・結婚式場の予約金・アパートの権利金など)は、当然請求できます。あなたの場合のように、婚約のために今まで勤めていた会社をやめたケースでその損害賠償を認めた判例もあります。女性が勤めていた会社の女性社員の平均勤続年数をもとに、退職しなければその後勤められていたであろう年数に対して収入から生活費を差し引いた差額が支払われています(東京地裁昭和34年12月15日)。
また精神的損害の賠償(慰謝料)も請求することができます。慰謝料の額は、婚約に至るまでの事情、婚約をした後の当事者間の交際状況、婚約後の状況などを考慮し、婚約期間が長かったり、相手方の責任が重いとき(不貞行為があったときなど)には当然高額になるでしょう。具体的な額は一概にいえませんが、100万円前後が基準となるでしょう。
交渉してもどうしても話がつかないときは家庭裁判所に「婚約履行請求の調停」や「慰謝料請求の調停」を申立て、それでも解決しなかったときは、地方裁判所に「損害賠償請求訴訟」を起こすことになります。
不誠実な人と婚姻までに別れることができたわけですから、いつまでも破談のことで悩み続けず、信頼できる人に代理人になってもらうなどしてテキパキと解決し、新しい人生を捜すことが大切です。

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