
法のくすり箱
Q、私の息子(中1)は、学校で、乱暴で札付きの級友に理由もなく物を投げられ、右目に大ケガをしました。失明の危険はありませんが、将来、後遺症が残るということです。子どもにとって大切な時期でありこれからのことが心配です。加害者の親は資力はあるのですが、子どものことは親には関係がないととりあってくれません。治療費や慰謝料の請求は誰にすればよいのでしょうか?また、学校の先生の生徒に対する監督責任はどうなるのでしょうか?
A、この事例のように未成年者がケガをさせた場合において、被害者が損害賠償を請求できる相手は、未成年者が責任能力者と判断されるか否かで異なります。その未成年者が、責任能力者と判断されるときには未成年者自身が、責任能力者と判断されないときにはその未成年者の両親等がその賠償の責に任じなければならないことになっています。このため、被害者は他人の子である加害者(未成年者)をバカ呼ばわりし、加害者の両親は自分の子どもを利口だとほめるという、わが国の従来の慣例からいえば奇妙な現象がおこります。
ところで民法や判例によれば、未成年者が責任能力者とみなされるのはおおむね12〜15歳以上とされていますが、この年齢は事件の実情に照らして考えられ、ケースによって異なります。
まず、この少年はあなたの息子さんと同級生とのこと。中1(12〜13歳)でも、本件の具体的な事情に照らして責任能力者であると判断された場合、賠償責任は少年自身が負い(民法709条)他の者はこの責任を負いません。ところが、少年は、通例無資力であることが多く、さしあたっては何らの金銭的給付を期待できません。せいぜい本人に対して訴訟等により債務名義を得て、本人が成人し就職した後に取り立てていくようにすることは可能ですが、気の長い話です。ところで、本人が責任能力者とみなされても(責任無能力者とみなされたときにも同様ですが……後述)、被害の発生について学校側に手落ちがあるなど事情のいかんによっては学校側(自治体・学校法人・教師)の責任を問題にすることができます(国家賠償法1条、民法709・715条)。この方向も、一応、検討されることをおすすめします。
次に、この少年が責任無能力者と判断される場合、本人には賠償責任はなく、本人以外の両親やその他の者の責任が問題となります(民法712・714条)。
親は、子どものあらゆる生活の場合において監督をしなければならず、親の目の届かないところ(学校や遊び場等)でもその義務があるとされています。親はこの監督義務に手落ちがなかったことを証明できなければ損害賠償責任を免れることはできません。この少年のように普段の素行に問題があり、行動に注意を要するような場合、監督義務を怠らなかったことを立証して免責される可能性は少ないのですが、本人の判断能力等からみて親の監督範囲や義務の大きさが考慮されます。
また、前述のように、少年が責任能力者であれ、無能力者であれ、学校側の責任の問題は残ります。親に代わって監督をする教師が、事件を見ぬふりをしたとか、通報があったにもかかわらず放置したとかいうように、学校生活において監督上故意や過失があったとみられる場合には、その雇用者である自治体(公立学校)や学校法人(私立学校)が責任を問われることになるとともに、故意または過失(公立学校の場合は重過失)ある教師の責任が問われることとなります(国賠法1条、民法715条)。
最後に、やはり、少年が責任能力者であれ、無能力者であれ、例外的に、その少年の親に独自の責任が認められる場合があることを附記しておきましょう。それは、「親が相当の監督をすれば事故の発生を防止できたケース」「監督をしなければ事故の発生する危険が強かった場合などに親がこれを怠ったケース」などの場合で、この学校のケガのケースがこれにあたるときには、親自身の賠償責任(一般の不法行為責任、民法709条)を問うことができます。
[ことば欄]
☆責任能力者
自分がしたことが法により許されるかどうかを認識し、判断できる者をいう。責任能力者かどうかは、それぞれの心身の発育の状況・生活環境・身分・加害行為の種類・性質など種々の事情を考慮して具体的に判断される。民事関係においては、責任能力者のみが損害賠償責任を負い、責任無能力者は責任を負わない(民法712条〜714条)。
☆債務名義
ものを引き渡すなどの給付義務の存在とその範囲を表示した公文書で、法律がこれによって強制執行をなしうることを認めたもの。その代表的なものが判決である。そのほかに、仮執行宣言付の支払命令や裁判所でつくられた和解調書・調停調書などがある。
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