
法のくすり箱
Q、自宅に泥棒が入り母の形見のダイヤの指輪を盗まれてしまいました。私にとってはほんとうに大切な物なのですが、「時効」がすぎて犯人がつかまらない場合は、あの指輪をあきらめるしかないのでしょうか?
A、まず泥棒には2つの責任があります。1つは社会の安寧秩序を脅かした責任で、これは刑事責任といわれ、刑法によって裁かれるものです。もう1つは私人の間の問題で、この場合はあなたという個人に損害を与えたという責任で、これは民事責任といわれ、民法によって解決されるものです。
もう少しわかりやすい例をあげますと、たとえば車を運転していて事故を起こした場合を考えてみましょう。軽い事故で反則金ですむこともあれば、重大な過失を問われ裁判の結果懲役に処せられることもあるでしょう。これら一連の措置が刑事責任であり、交通事故の場合はこれに加えて減点・免許停止・免許取消などの行政処分も行われています。そしてこれらとは別に、事故の相手方に対して治療費や慰謝料・物損の賠償金などを支払わねばなりません。これが私人間の責任、民事責任です。
さて、泥棒の場合、刑事上の罪は窃盗罪にあたり10年以下の懲役に処せられます(刑法235条)し、民事上も損害賠償の義務が当然あります。そして時効も、この各々について定められています。
あなたが質問されている「時効」は、このうち「公訴時効」とよばれているもので、10年以上の懲役にあたる罪については7年と定められています(刑事訴訟法250条)。つまり、犯人が不明のまま迷宮入りし、犯罪行為の終わったときから7年が経過すれば、もはや犯人を逮捕し裁判にかけて刑事上の罪を問うことはできないというものです。
しかし民事責任には別の時効があります。民事上では、不法行為のときから20年間(もし犯人がわかったときはそのときから3年間)は損害賠償を請求する権利が認められます。もっともそれ以降でも請求が許されないわけではなく、犯人がだまって払ってくれればそれはそれでよいのです(時効完成後の弁済)が、犯人が時効を主張すれば(時効の援用)もはや払ってもらえないというのが民事上の時効です(民法724条・145条)。したがってあなたの場合、たとえ7年間たってしまってもあと13年間もあります。その間に犯人がみつかってダイヤの指輪を所持していたときにはその返還請求に加え、民事上の損害賠償を請求することもできます。
ところで、その指輪が、盗品だということをまったく知らなかった善意の第三者の手にすでに渡ってしまっていたときには、残念ですがその持主に対して返却を要求することはできません(民法192条)。あなたとしては犯人に損害賠償のお金を請求する他ないわけです。

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