
法のくすり箱
Q、「貸金庫は、たとえ家族でも本人に無断で開けることはできない」と聞きましたが、借主が死んだ場合は、相続人が勝手に貸金庫を開けてもかまわないのでしょうか?
A、貸金庫契約は、有価証券・預金通帳・権利証・貴金属・宝石・その他の貴重品を格納しておくために、銀行がその建物内の金庫室を有償で貸し付ける契約で、賃貸借契約になります。しかし単に貴重品を入れるだけではなく、たとえば日記・信書などプライバシーを守ることにも貸金庫は利用されています。したがってたとえ夫であろうと、妻の名で借りた貸金庫を銀行へ代理人届(妻から出します)が出てもいないのに勝手に開けることはできません。もし銀行が代理人届のない夫の申出で開扉したとすれば、銀行は妻に対し、その精神的苦痛についての損害賠償を当然支払わねばなりません(東京地裁判決46.2.12)。
一方、借主が死亡した場合は事情は異なります。民法によれば、死亡によって相続が開始されると、相続人は被相続人の一切の権利義務を承継することになるので(896条)、貸金庫契約の場合も、借主の死亡により相続人が賃借人の権利義務を承継することになり、賃貸借契約は終了しません。
そこで、相続人が1人の場合は当然にその人が貸金庫を開閉することができ、別段問題はありません。しかし2人以上の共同相続人の場合は、貸金庫契約における賃借権の帰属が遺産分割によって決定するまで、共同相続人の間で債権を共有することになるので、相続人の1人が貸金庫を全面的に利用し、勝手に開閉することはできません。ですから貸金庫を利用するときは共同相続人全部の名義で利用することになります。その場合、相続人全部が、あるいは相続人全部から代理権を授与された者が、銀行に対し相続の事実を通知し、所定の手続きをへて、相続人全部の名義で貸金庫を開閉することになります。また、相続人全部の名義で銀行に対して貸金庫契約の解約を申し出ることもできるので、相続開始後貸金庫契約を継続する利益は乏しいと考えられることから、通常は解約の申出をするようです。反対に、銀行としても、共同相続人全部が借主として貸金庫を利用することは実際上不都合が多いと思われることから、借主について相続が開始したときは解約することができるようにしてあります。解約すれば、格納してある物を受け取り、金庫を明け渡すことになります。
なお、貸金庫規定によると、貸金庫の開閉は借主もしくは借主があらかじめ届け出た代理人が行うことになっていますが、借主が死亡したときは、開閉に関する代理人の権限も消滅することになるので(民法111条)、借主死亡後は、借主の届け出た代理人も貸金庫を開閉することはできません。

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