予防法務ジャーナル「そよ風」▲人身保護の適用▼

法のくすり箱

Ｑ、私は３年前に協議離婚しました。その際子供（当時６歳）は引き取り、今まで親権者として養育してきました。ところが先日、別れた夫が公園で遊んでいた子供を連れ去ってしまい、何度頼んでも返してくれません。子供を取り返す方法はないでしょうか？また、夫は子供の実父とはいえ、この場合何の罪にもならないのでしょうか？

Ａ、あなたは、親権者として子供の監護、教育をする権利を有していると共にその義務を負っています（民法８２０条）。ですから、親権者でない第３者（この場合別れた夫）が親権の行使を妨害し、特に子供に不利益や危害を加えるおそれがあるときには、親権者であるあなたはその危害を取り除き、子の安全を図ることができるし、また図らなければならない義務があります。この引渡請求権は条文では規定されていませんが、判例や学説で広く認められている権利です。したがって、あなたは親権に基づいて夫に対し、子供を引き渡すように請求することができます。

　ではその請求方法ですが、相手が話合いに応じれば問題はないわけですが、応じない場合は次の方法が考えられます。

　まず１つは、家庭裁判所に子の監護に関する処分を求める調停または審判の申立をすることです。この方法は時間がかかりますが、何度も話合いをくり返し、双方が納得できるような解決を試みるので、子供の福祉にとってきめ細かい対応ができます。また、もう１つは、即効性という見地から地方裁判所に人身保護法による子の引渡請求の訴をおこす方法もあります。どちらの方法がいいとは一概にはいえませんが、夫のもとに子供をとどめておくと子供の健全な発育が阻害され、子供の幸福に重大な障害となるおそれがあり、１日も早く子供を引き取る必要がある場合は、後者の方法で、それほど不当性・緊急性がない場合は前者の方法をとればよいでしょう。

　ただしいずれにせよ、子供が、自分の自由意思で夫のもとにいったときには、親権行使の妨害にはならず、子供の引渡請求権は成立しませんので留意して下さい。

　最後に、夫の罪が成立するかどうかの問題ですが、実父であっても離婚の際にあなたに親権を一任したのですから、あなたの承諾なしに子供（未成年）を連れ去れば、刑法２２４条の未成年者略取または誘拐罪になります。アメリカでは夫婦間の子供の取り合いで誘拐罪が現実に適用されている事例が少なからずあるようですが、わが国ではまだそこまで進む告訴事例は見受けられないようです。

　あなたの場合も、子供はまだ小さいようですが、あくまで第１に子供の人権を尊重し、その結果、希望どおりにならなくても、それが子供の幸せにつながるのであればそれはそれでしかたがないでしょう。

「人身保護手続の流れ」

　次の１～３の手続きが迅速に行われます（裁判所は人身保護の請求があったときは、他の事件の処理を中止してこれを優先審理することとされています（法６条）。

１人身保護の請求

人身保護の請求

請求者　　山田花子

上訴訟代理人弁護士　　鈴木一郎

拘束者　　松竹太郎

被拘束者　　山田一雄

請求の趣旨
　一、被拘束者のため、拘束者に対し、人身保護命令を発布し、被拘束者を釈放する。
　二、本件請求の手続き費用は、拘束者の負担とする、との裁判を求める。
……略……

２人身保護命令書

　平成○○年(人)第○○号
　人　身　保　護　命　令　書

請求者　　山田花子

被拘束者　　山田一雄

拘束者　　松竹太郎

　拘束者が被拘束者を不法に拘束していることを理由として、人身保護命令発布の請求があったので、当裁判所は、その請求を相当と認め次のとおり決定する。

主　　文
　拘束者は平成○○年○月○日午後○時の当裁判所民事○部第○○号法廷における審問期日に被拘束者山田一雄を出頭させるとともに、その期日までに答弁の趣旨並びに拘束の日時、場所及びその事由を明らかにした答弁書を提出せよ。
（拘束者が、この決定に従わないときは、拘引し又は決定に従うまで拘留し、及び遅延１日につき５０万円以下の割合による過料に処することがある。）

　　　平成○○年○月○日
　　　　　　○○地方裁判所第○民事部

裁判官　　勉野達三

３判決

　平成○○年(人)第○○号人身保護請求事件

判　　決

請求者　　山田花子

被拘束者　　山田一雄

拘束者　　松竹太郎

主　　文
　被拘束者山田一雄を釈放し、請求者に引渡す。
　本件手続費用は拘束者の負担とする。
理　　由
…略…
　　　平成○○年○月○日
　　　　　　○○地方裁判所第○民事部

裁判長裁判官　　佐藤良雄

裁判官　　勉野達三

裁判官　　吉田和子

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