
法のくすり箱
Q、土地の売買契約を結び、手付金を支払いましたが、引渡日が来ないうちに売主が死亡してしまいました。相続人である奥さんと息子さんに残りの代金と引換えに登記するように要求しても、自分たちは知らない、すでに相続登記をしてしまったからと言って応じてくれません。どうしたらよいでしょうか?
A、死亡によって相続が開始されますと、相続人は、被相続人の一切の権利義務を承継します(民法896条)。つまり本問の場合ですと、土地の所有権が相続によって相続人に移転したとしても、同時に、売主(被相続人)があなたに対して負っていた登記義務もまた相続人に移るわけです。これは、相続人が土地の売買契約があったことを知らなくても、また土地の登記名義が相続人に変わっていても同様です。よってあなたは、相続人に対して残金の支払いと引換えに所有権の移転登記をするように請求することができ、また相手方がこれに協力しないときは登記請求の訴えを起こすことができます。
ただここで留意しなければならないのは、登記請求の訴えを進めている間に、相続人が土地を第三者に売却(二重譲渡)し、しかも登記まで移してしまった場合のことです。そのときは、あなたは先に登記を済ませた者に対しては所有権を主張することができず(民法177条)、結果として土地を現実に取得することができなくなります。
そこで、相続人らが、この土地を第三者に売却するおそれがあり、移転登記請求の勝訴判決を待っておれないような場合には、それを防ぐために早く専門家に相談して仮登記仮処分などの法的手続きをとった方がよいでしょう。これは不動産所在地を管轄する地方裁判所へ、仮処分(くわしくは「そよ風」51号民事保全法を参照)による仮登記を登記所へ嘱託してくれるように申請するもので、相手方の協力がなくても単独で簡易迅速に行うことができます。この仮登記をしておくと、本登記をしたときに、仮登記の時期にさかのぼって優先的に順位が確保されるので(不動産登記法7条2項)、あなたは、安心して登記請求の訴訟を進めることができます。
ところが、あなたが以上の手続きをする前に、相続人が土地を二重譲渡しさらに登記までしてしまった場合には、もはやその第三者が土地の所有権を取得するので、あなたは相続人に対して債務不履行に基づく損害賠償の請求しかできません(民法415・416条)。

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