
法のくすり箱
Q、私の家は借地に建っています。地主から固定資産税が上がったからと地代の値上げを請求してきましたが、応じなければいけませんか?たまたま娘も、借りているマンションの家賃の値上げを家主から請求されているとのことです。賃料の増額は地主・家主から一方的にできるのでしょうか?
A、一般的に、土地建物の貸主は、土地建物の価格の上昇・固定資産税の増額など、地代家賃を従前のままに据え置くのが公平でないと考えられるような事情が生じた場合に、妥当な額まで賃料の増額を請求することができます(もっとも1986年までは、地代家賃統制令の適用のある土地建物の賃料は最高額について制限を受けていました)。借主が、この増額をそのまま承認するならばとくに問題はなく、貸主の増額の請求が借主に伝達されたことによって賃料改訂の効果が発生します。
しかし、借主が、貸主の主張する値上げの理由が承認できない、または値上げの額が妥当でないと考える場合には、さらに貸主と話し合って双方の納得のいく解決をはかることになります。貸主は増額の理由や値上げ額について借主に説明し、借主はこれを検討するわけですが、すぐに折り合いがつかないときには、借主は貸主の要求する賃料を払わないで従来の賃料、または自分で妥当と考える新賃料を供託することを勧めます。こうしておけば、借主は賃料不払いの責任を問われることはありません。
話合いがつかない場合、貸主は、簡易裁判所へ賃料増額の調停を申し立てます。そして調停の中で合意するか、あるいは「調停委員会が定める調停条項に服する」という合意を得ることができなければ、裁判を提起することになります。調停委員会や裁判所では、審理の上、「適正」な賃料を決定します。「適正」賃料は、賃料事例を比較したり、物価変動率をスライドしたり、適正利潤率を考慮して算出し、調整の上、決定されます。裁判所の決定した賃料とそれまでに借主が供託した賃料との差額は、年1割の利息をつけて清算されます。
賃料の増額が認められるためには、(1)現行の賃料を決めた時期から相当の期間(判例の平均は約3年)が経過していること、(2)経済的事情の変動があったこと(たとえば、a)土地建物の税金が上がったこと、b)土地建物の価格の上昇、c)近所の賃料に比べて低いことなど)、(3)公平の観念からみて従来の賃料が「適正」でなくなったと認められることが必要です。すなわち、従来の賃料を決めたときから相当の期間が経過し、その間に新たな経済事情が発生してこのため従前の賃料を据え置くことが公平でないと認められるに至ることが必要です。
しかし、固定資産税が上がったとしても、上がった範囲だけすぐに値上げすることが許されるわけではありません。従来の賃料がすでに近所の相場よりいくらか高かったというような事情があれば、全く据え置いたり、小幅な値上げにとどめたり、という場合もでてきます。また、最近、一部の地域で地価の値下がりそれに伴う固定資産税の評価換えが伝えられていますが、このような場合には、借主から賃料の減額を要求することもできるとされています。

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