
法のくすり箱
Q、私は、大学浪人中の下宿住まいの少年(18歳)の運転するバイクに跳ねられて骨盤を折る重傷を負い半年も入院しました。少年はもちろん未成年で無資力です。バイクは両親が買い与えたもののようですが、両親に対して法律上の賠償請求をすることができるでしょうか?
A、18歳の少年であれば、未成年者といってももうりっぱに分別もあり、事の善悪や責任の有無を判断する能力(責任能力)があるはずです。したがってその少年だけが(いくら無資力でも)、自ら事故(不法行為)による賠償責任を負担します。もっとも、未成年者がまだほんの子供で責任能力がない場合にはその親が監督義務者として補充的に責任を負わなければならないとされています(民法712・714条)。しかしこのケースのように、加害者の少年に責任能力が認められる場合においては、親に対して上述のような補充的賠償責任を問うことはできません。以上が原則です。
しかし例外的に、未成年者の行為による損害の発生について、少年の親に独自の責任が認められる場合があり、そのときにはその親も賠償責任を負担することがあります(一般の不法行為責任、民法709条)。それは、「親が相当の監督をすれば事故の発生を防止できたケース」「監督をしなければ事故の発生する危険が強かった場合などに親がこれを怠ったケース」がこれに該当します。具体的には、たとえば、(1)親が同乗して子供の乱暴な運転を見ていたにもかかわらず何ら注意を与えなかった場合、(2)子供がしょっちゅう事故を引き起こしていて酒酔運転や信号無視も日常茶飯事であるのにこれを注意せず運転を禁止しなかった場合などです。
さらに、このように極度に限定されたケースでなくても、親が自賠法(自動車損害賠償保障法)3条の運行供用者に該当する場合であれば、親は子供の起こした自動車事故の損害を自らの立場で賠償しなければなりません。
事故の加害車を親が所有するなどしてその保有者(自賠法2条3項)である場合には、たまたま子供が運転して引き起こした事故について親は原則として子供の責任を負うことになります。
また、加害車を子供が保有している場合(本件のケース)ですが、親が自動車を購入し、維持管理等の費用も親のもとから出ているときには、親の運行供用者責任が認められるのが普通です。しかし、子供がアルバイトで得た資金で車を買い、ガソリン代も自分で負担しているようなケースでは親の運行供用者責任は否定されます。
したがって、加害者の少年が無資力であるというだけで法律上の賠償請求を断念してしまうのは早計です。そのような場合であっても、少年が運転していたバイクまたはその運転に対する両親の関わりあい等を点検してみる必要があります。そして一般の不法行為責任(民法709条)や運行供用者責任(自賠法3条)を問うことによって両親にも賠償を請求できないかどうかを検討してみてください。

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