
法のくすり箱
Q、事業を営んでいた父が突然亡くなりました。目下、相続財産の調査をしていますが、書類がみつからなかったりして正確な債務額がつかめません。かなりの借金があるようですが私たち相続人(兄弟2人と母)はその借金を払わなければならないのでしょうか?
A、相続というのは「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(民法896条)ことですから、相続人はプラスの財産(動産・不動産・債権など)を承継すると同時に、マイナスの財産(債務)も受け継ぐことになります。つまり、プラスの財産だけ受け継いでマイナスの財産は受け継がないというように、相続人の都合のいいようにはなりません。そこで、マイナスの財産を免れる方法として、「相続放棄」(939条)と「限定承認」(922条)の制度が設けられています。
まず、相続放棄ですが、これは相続人としての権利を一切放棄してしまうことであり、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てて行います(915・938条)。マイナスの財産を背負わないでよい代わりに、その他のプラスの財産を相続することもできません。ですから明らかにプラスよりマイナスが多いときにはこの方法をとるのが得策でしょう。しかし、あなたのようにプラスとマイナスのどちらが多いかわからないときは、限定承認という方法をとるのが無難です。
限定承認とは相続によって得たプラスの財産の限度でのみ被相続人のマイナスの部分を負担するもので、マイナスの方が大きくてもそれ以上、相続人の固有財産にまで及ばない制度です。その手続きですが、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に相続財産の財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨の申述をします(924条)。この場合、相続人が数人いれば最後に期間満了すべき者を基準にして3ヶ月を算定し、また、1人でも限定承認に反対するものがいれば限定承認ができないので、全員で申述することが必要です(923条)。
このように、限定承認は、相続放棄と比べると手続きが複雑ですが、あなたの場合のように、-
- (1)債務が超過しているかどうかはっきりしない場合のほか、
(2)債務超過ではあるが、相続人中に家業を受け継ぐ者があり、債務を受け継いで時期を待てば家業を再建する見通しがある場合、
(3)また相続財産の中に、相続人がぜひ取得したい先祖伝来の家宝があるといった特別の場合
などにはとくに実益があります。

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