
法のくすり箱
Q、友人にステレオを要求され困っています。私が彼に贈与する旨を書いた紙を見せられたのですが、酔った上で書いた約束らしく、私には全く覚えがありません。それでも彼にあげる義務はあるでしょうか?
A、ある人が無償で財産を与えようと思い、相手がこれを受諾した関係(約束)を「贈与」といいます。
この贈与が、単に口約束だけで書面になっていない場合には、法的には双方から自由に取消しができることになっています(民法550条)。こうして、軽率な約束から起こる紛争を未然に防止しているわけです。ただし、すでに相手に渡してしまった物は取り返すことはできません。
一方、あなたのように書面による贈与の場合には、事情が異なります。この場合には、一般に取消しは不可能です。彼がこの贈与の解約に同意してくれれば別ですが、同意しないにもかかわらずあなたが履行しないときには、彼はあなたに対して、裁判で引渡しを求めたり、損害賠償を請求することができます。つまり、書面による贈与者には重い義務が課せられているといえましょう。
もっとも、ちゃんとした書面による贈与でも、その履行が例外的に免除される判例も見られます。たとえば、バーの女性の歓心を買うために酒の勢いで金銭を贈与する約束をしたようなときには、その真意に疑いがあるので、訴えてまで履行させることはできないとした判決(大審院昭和10.4.25)などです。つまり、書面を作成した状況によって判断が異なるのです。
あなたの場合、酔った上でとのことですが、具体的にどのような書面を、どういう経過で作成したのでしょうか?かなり泥酔状態にあったことがうかがえる場合ならば、真意が疑わしいとして免除されることも考えられないではありません。しかし、少し酔っていたとしても、きちんとした書面であり慎重な意思が確実に見て取れるような表現・文面であったり、立会人をおいて改まった形で作ったりしたものなら、一般に真意は疑わしいとはいえず、もはやあなたの方から一方的に贈与を取り消すのは難しいでしょう。

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