法のくすり箱
Q、私の家は住居地域にあり、日当たりもよいのですが、最近、南隣りの空き地が整地されて車置場になりました。地主の話では、いずれは第三者に売却するということです。もしそこにマンションでも建つとなると、私の家の日照はまったくなくなってしまいます。どうしたらよいものでしょうか?
A、日照の保護については建築基準法の規制があり(56条の2、日影による中高層の建築物の高さの制限)、その他、地方公共団体が条例を制定したり、あるいは指導要綱をつくって行政指導をおこなったりしてはいますが、これらの現行制度にはいずれも限界があり、必ずしもあなたが納得できるような範囲や時間帯において日照が確保できるとは限らないのが実情です。
そこであなたの場合ですが、ご質問によれば現時点では具体的に工事内容が確定しているわけではなく、幸い、まだ第三者にも売却されていないということですので、まずは地主と話し合い(直接交渉・民事調停など)、「日照地役権」を設定してもらうよう努力されてみてはいかがでしょう。
地役権(ちえきけん)とは、ある土地の便益のために他人の土地を利用できる権利で、日照地役権は相手の土地に日照を妨げる建物を建てないことを目的としており、相手の土地所有者(地主)はそれ以外なら自由にその土地を使えるというものです。この地役権は必ずしも承役地(本件では南隣りの空き地)の全部に及ぼす必要はなく、たとえば、その一部分(図面で示す)について高さ5メートル以上の工作物を建てない、という趣旨のものとして設定することも可能です。ただしこの場合、必ず地役権の登記をしておかなければなりません。そうしないと、第三者が隣地を購入したときに地役権を主張できなくなるからです。また、地役権自体はその性質上有償でも無償でもかまいませんが、日照という有利な買物をする以上、当然相手方に対して一定の対価を支払うこととなりましょう。
しかし地主が地役権の設定に応じてくれず、未解決のままその土地が第三者に売却されてマンションが建つ予定となったときは、改めてその建築主と交渉するほかありません。その際には、簡易裁判所への民事調停の申立てや市町村の日照調停の活用(たとえば神戸市の場合であれば、市の日照調停委員に利害関係の調整をしてもらいます)も考慮してください。
それでも解決しないときは、最後の手段として、建築禁止の仮処分の申請があります。これは専門的手続きですので、法律事務所と相談して裁判所へ申し立てることになりますが、裁判所は、日照阻害の程度や地域性などを重視し、受忍限度(社会生活上一般にがまんしなければならない限度)をこえているかどうか判断します。住宅地域のほうが、商業地域・工業地域などにくらべ日照への配慮が手厚いのはもちろんです。
しかし、一般に日照の権利性が次第に認識されてきてはいるものの、現在のところ、ほとんど1日中日が当たらないなどよほどの日照阻害のケースでなければ、なかなか建築禁止とまではいかないのが判例の実情です。できるかぎり、時間と労苦をいとわずに交渉し、仮処分に至るまえに解決する努力が肝要というほかありません。
☆仮処分
将来判決をもらって強制執行するのを待っていてはそれまでに現状が変更されてしまい、判決内容を実現することが不可能となったり非常に困難になることがある。仮処分はそのようなおそれがある場合に、これをあらかじめ防止するため、裁判によって現状を維持・保全する手続き。判決前の仮の差押手続き(仮差押え)とともに、保全訴訟の別名がある。
「係争物に関する仮処分」(民事保全法23条1項)と「仮の地位を定める仮処分」(同条2項)の2種類があり、前者は、たとえば、家主が借家人に対し契約解除を理由に家屋の明渡し請求をするにあたって、家屋についての現状を変更しないよう現状変更禁止の仮処分をすることなどがこれにあたる。日照権にかんする仮処分もこれに属する。一方後者は、たとえば、使用者の解雇が無効であることを確認する判決を求めたが、判決が出るまで待っていたのではその間の給料がもらえず生活がなりたたなくなるような、差し迫って処置をしなければ当事者が損害をこうむるような場合に、暫定的に相当額の給料を払うことによって社員の地位を認める仮処分などがこれにあたる。
参考までに、仮処分命令の主文を2例とりあげる。
- 債務者の別紙目録記載の物件に対する占有を解いて、○○地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
執行官は、現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許さなければならない。この場合には、執行官は、その保管にかかることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。
債務者は、この占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。
債務者は、別紙目録記載の物件について、譲渡・質権・抵当権・賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。
- 債権者が債務者の従業員である地位を仮に定める。
〔→文中にもどる〕

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