法のくすり箱
Q、私は男ばかりの二人兄弟です。長寿に恵まれた父母は先年亡くなっています。先日、兄は脳出血で急死し、兄嫁と未成年の息子が残りました。兄は多額の負債を抱えており、兄嫁は息子と共に兄の相続を放棄するといいます。兄にとって私は実弟ですが、なぜ相続の放棄などということになるのでしょうか。兄嫁は市役所の法律相談に行ったところ、そのようにアドバイスを受けたというのですが、このアドバイスに従った方が良いのでしょうか。
A、このアドバイスは次のとおり一理あると考えます。あなたの兄(兄嫁にとっては夫)が死亡されたときから3ヶ月の間に兄嫁や兄の息子さんが夫又は父からの相続の放棄をしなければ、兄の財産は、借金もろとも、兄嫁が2分の1、息子が2分の1ずつ相続することになります。その場合あなた個人としては兄の借金とは無関係です。しかし3ヶ月のうちに相続の放棄(その申述の資料は家庭裁判所にありますので問い合わせて下さい)をするならば、兄嫁と息子さんが相続するはずの財産(実際は負債、おそらくは借金まみれのマイナスの財産)は、兄の両親の相続対象となります。しかしご両親も死亡されているとのことなので、弟であるあなたが兄の財産(といっても実際は負債)を全部相続することになるのです。民法の相続放棄の定め(887条889条)によれば、兄弟姉妹にあたるあなたは先順位の相続人がいなくなったときには相続人となります。したがって先順位の相続人である兄嫁や兄の息子さんについて相続の放棄の申述がされたら、それから3ヶ月以内にあなたも家庭裁判所へ申述して相続を放棄し、兄の相続については、初めから相続人にならなかったとするのが得策です(民法938条、939条)。市役所の法律相談でのアドバイスはこの意味のことをいわれたものと解されます。
ところで、このケースとは違ってプラスの財産とマイナスの財産とどちらが多いかはっきりしない場合には、相続を放棄したものかどうか思案されることもあるでしょう。そのような場合の制度として限定承認という相続方法があります。これはプラスの財産の限度でマイナスの財産を相続するという制度です。この手続も3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述することによって行いますが共同相続人全員の同意がなければなりません(民法922〜924条)。
さてあなたの相続放棄の申述の手続がまだ済まないときに兄のかかった病院からの請求書が届き、これを兄の遺産から支払ったものかどうかといった質問が寄せられることがあります。下手に兄の財産をいじると、法定単純承認(民法921条2項)といって、あなたが兄を相続したものとみなされ、相続の放棄の手続が無効とされることがあります。もし可能ならばあなたのお金から一時立替、後日、相続人不存在として定められることになる兄の財産の公的な管理人(相続財産管理人 民法952条1項)から支払いを受けるのがよいかと考えます。しかしそれまではあなたが立替のご負担を引き受けることになります。相続財産の管理人の選任についてやや詳しく説明しますと、あなたは兄の入院費用を負担しているということで、利害関係人として家庭裁判所に申し出ることができます。
家庭裁判所は相続財産管理人を選任し、その旨を官報に公告します。この後2ヶ月以内に相続人が明らかにならなかったときは、今度は相続財産管理人が、債権者・受遺者(遺言で指定された人)に対して2ヶ月以上の期間を区切って名乗り出るようにという旨を公告します(957条1項)。あなたは、この期間中に立替えたり、貸していた金銭があればそれも申し出れば、その金額を受取ることができます。

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