A、あなたは、どのような状況でミスをされたのでしょうか。
まず、極端なケースですが、労働者が故意に会社に損害を与えた場合には、当然ながら、労働者は損害賠償を全額支払う義務があります。ただしその賠償額は、古いカートの修理代とカートが使えないことによって生じた損害が対象です。そして修理が不能の場合でも、その古いカートの価値を賠償すればよく、新しいカートの価額まで弁償することにはなりません。
次に、あなたに重大な過失があった場合も、やはり支払う必要があります。たとえば、酒酔いや二日酔いでの酒気帯び運転だったとか、あなたが居眠り運転で事故を起こした場合がそれに相当するでしょう。ただそうしたケースでも、明らかに二日酔い等酒臭い人とわかったうえで運転をさせた、仕事がハードで過労のあまり居眠りをしたなど、会社にも責任があると考えられるケースでは、あなたが損害の全額を賠償する責任まではなく、相応の減額がなされるべきです。
そして、カートが老朽化していたり、きちんと整備されていなかった、あるいは、正しい操作方法を教わらずに不慣れな運転をしたなど、会社側の管理体制の不備が原因で事故が起こったなら、あなたに賠償の責任はありません。たとえ入社時に修理代は負担すると契約していたとしても、事故の原因が会社側にあるなら、あなたには賠償義務はないのです。
さて、こうした故意や重大な過失でなく、あなたの些細な不注意によるちょっとしたミスであれば、一般的には損害賠償支払い義務はありません。基本的に、労働者が労働の中で通常求められる注意義務を尽くしていさえすれば、損害賠償の必要はありません。たとえ些細な不注意から損害が発生しても、そのミスが一定の確率で発生する性質のものであれば、損害賠償義務は発生しないのです。たとえば、釣り銭の受渡しの間違いや食器を割ってしまうなど、日常的に起こりやすいミスがこれにあたります。
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ところで、損害賠償は給料から天引きすることはできません。労働基準法では、賃金は全額直接労働者に支払わなければならないと定めています(24条)。
また、あなたは会社に修理代を負担するという約束をしていたようですが、もし「これを壊したら○○円支払う」というように、あらかじめ損害賠償額を予定する契約を会社と結んでいるなら、そのような契約は無効です(同16条)。賠償額は実際に被った損害から算定されるべきであり、事前に定額に定めることは労働者にとって不利益になりかねないからです(たとえば契約で賠償額が100万円とされていても、実際の損害が50万円程度である等)。あらかじめ賠償額が決まっているなら、会社としては事故による損害があったというだけで、実際の損害額を計算・立証する必要もなく、労働者にとっては不利な契約となります。なお、この条文は、損害賠償の金額を予定することを禁止するもので、使用者が労働者に損害賠償を請求すること自体を禁止するものではありません。
ちなみに、損害賠償と別に、ペナルティーとして減給されることもあるでしょう。こうした減給(制裁としての罰金・過怠金・降給等を含む)については、あらかじめ就業規則や労働協約に制裁条項がなければ、恣意的に課することは許されません。しかもその額は、「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と制限があります(同91条)。つまり、1回の事案についての減給の額は平均賃金1日分の半分までにとどめ、もし1賃金支払期(たとえば月給制なら1ヶ月)に数回の事案があったとしても、その総額は当該期間に支払われる賃金の10分の1までにしなければならないという規定です。
このように、損害賠償の必要の有無・金額などはケースバイケースですので、一度お近くの法律事務所へ具体的な相談に行かれてはいかがでしょうか。