法のくすり箱
Q、先日青信号で横断していたところ、信号無視の車にはねられる事故にあい、3ヶ月余も入院しました。ようやく退院した後、警察に問い合わせてみると、相手は私が信号を無視して飛び出したと話し、不起訴になったということでした。事故の相手は一度も見舞いにも来ず、全く誠意がみられませんし、どう考えても納得いきません。何か良い方法はないでしょうか?
A、軽い事故でむやみに前歴者を増やさないためにということで、交通事故の起訴基準は引き上げられています。たとえば、けがが2週間以内で、示談も成立し、酒を飲むなど悪質運転でない場合には起訴をしない(起訴猶予)などです。そのため、あなたのように重大な事故においても起訴されないケースが発生しているようです。

でも犯人が処罰されるためには、その事件が起訴されなければなりません。そしてその判断は、検察官のみに委ねられているのです(刑事訴訟法247条)。
そこで、あなたのように不起訴処分(事件を裁判にかけないこと)に不服がある場合には、「検察審査会」というところへ申立てをすることができます。
この検察審査会は、地方裁判所とその主な支部に置かれており(現在165ヶ所)、衆議院議員の選挙権を有する者の中から無作為にくじで選ばれた11人の審査員で構成されています。これは、刑事手続きの中に一般の国民が参加し意見を反映させて、その適正を図ろうとするもので(検察審査会法1・4条)、古く昭和23年から導入されています。
申立ては、あなたのように事故の被害者や遺族、告訴・告発した人などが書面ですることとなっています。書面には、申立人と被疑者(相手方)の住所・氏名・年齢・職業、申立ての理由や事実関係、不起訴処分の年月日、担当検察官の氏名などの必要事項を書き、資料等を添付して提出します。提出場所は、不起訴処分をした検察官が属する検察庁を管轄する検察審査会です。料金は一切かかりません(法30・31条、令18条。くわしくは最寄りの検察審査会事務局へ)。
審査会議では、捜査記録や提出書類等の検討を行ない、必要に応じて担当検察官や申立人・証人などの尋問、官公署や公私の団体への照会、そのほか弁護士や医者・学者などに専門的な助言を求めることもあります(法35〜38条)。
ただ、審査されたことのある事案について再度申立てすることはできませんので、チャンスは一度だけです(法32条)。しかも、これまでに審査会が扱った事件数約15万件のうち、再調査の結果起訴された事件は1400件にすぎません。再調査の結果を得るには、十分な資料と裏付けをもって申立てにのぞむことが肝要です。
あなたの場合も、起訴猶予の基準にまったく該当していないことを申立ての書面にくわしく書くことです。重傷で3ヶ月も入院したこと、相手は示談どころか見舞いにも来ていないこと、さらに青信号だったのに相手はウソの証言をしていることなどを具体的に記載します。そして証拠として、診断書や、もし得られるなら目撃者の証言なども添えて提出すれば万全です(なおあなたの場合、相手は業務上過失傷害となりますので、刑事上の時効の5年以内に申し立てる必要があります)。
さて、審査の結果は、(1)起訴相当(起訴すべき)、(2)不起訴不当(さらに詳しく捜査すべき)、(3)不起訴相当の3つに分かれます。基本的には過半数で決定しますが(法27条)、起訴相当のときだけは8人以上で議決しなければなりません(法39条の5)。この議決書に法的拘束力はありませんが、検察官はその議決を参考にしてもう一度事件を検討し、起訴・不起訴を決めることになります(法41条)。
ただし、検察審査会が起訴相当の議決をしたのに検察官が起訴しないケースについて、平成21年5月21日、刑事裁判への裁判員制度の導入(そよ風158・159号参照)と同日から、新たに次のような制度が取り入れられました。起訴相当の議決にもかかわらず検察官が起訴しない場合には、検察審査会は再度審査を行ない、その結果、やはり起訴すべきとの議決をしたときには(起訴議決、法41条の6第1項)、裁判所が指定した弁護士(指定弁護士)によって起訴されることになります(法41条の9・10)。この場合、指定弁護士は通常ならば検察官が行なう事務を検察官に代わって担当します。なお、起訴議決は、検察官の2度の判断にも反対して公訴を提起するものであるため、審査補助員(弁護士の中から委嘱、法39条の2)の法的助言を得ること(法41条の4)、検察官に検察審査会議で意見を述べる機会を与えること(法41条の6第2項)を要件とする慎重さが求められています。
不起訴処分に納得がいかないときには、泣き寝入りしたりあきらめたりしないで、一度、申し立ててみてはいかがでしょうか。
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ところで、検察審査会に申し立てるかどうかは別として、このままでは相手のウソで、あなたに重大な過失があったことになってしまいます。保険金の支払いや損害賠償(医療費・休業補償・慰謝料請求等、民事手続き)なとすべての面で不利になり、当然受けられるはずの賠償がわずかしか、あるいはまったく受けられない事態にもなりかねません。相手に何の誠意も見られない現状のままなら,民事裁判も視野に入れて、一度法律事務所を訪れてみてください。

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