法のくすり箱
Q、先日インフルエンザにかかり、高熱を出して、会社を4日間休んだところ、上司から「年休届を出しておくように」と言われました。大切な年休をこんなことで消化するなんて納得できません。学校なら出席扱いなのに、会社では公休扱いにならないのでしょうか?
A、あなたのおっしゃるとおり、学生時代にはインフルエンザにかかって休んでも出席扱いとされたことでしょう。これは、「学校保健安全法(旧学校保健法。平成21年4月1日より改正)」で、感染症(伝染病)にかかった生徒等を校長は出席停止にできると定めていることに基づくものです(12条)。学校という特殊な場で、体力的にも劣る幼児・児童・生徒・学生を感染症から守るためにとられる措置で、インフルエンザも、はしか・おたふく風邪・風疹・水疱瘡・百日咳などと並び、第二種の感染症に指定されています。出席停止期間の目安は熱が下がって2日間までです(施行規則20条)。
では、社会人の場合はどうでしょうか。感染症については、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」に規定があります。その中で、就業制限を受けるのは、危険性の高い下表の感染症のみです(18条)。インフルエンザは、梅毒・麻疹などと並び五類感染症に分類されており、発生状況を収集するために、診断した医師は7日以内に年齢・性別等を保健所に届け出ることが義務づけられる(12条1項)ほか、とくに具体的な定めはありません。ちなみに「予防接種法」でも、インフルエンザの予防接種の対象者は原則として65歳以上の者に限定されています(法2条3項、施行令1条の2)。
就業制限のある感染症
☆ 一類感染症
エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,痘そう,南米出血熱,ペスト,マールブルグ病,ラッサ熱
☆ 二類感染症
急性灰白髄炎,結核,ジフテリア,重症急性呼吸器症候群(コロナウイルス ),鳥インフルエンザ(H5N1)
☆ 三類感染症
コレラ,細菌性赤痢,腸管出血性大腸菌感染症,腸チフス,パラチフス
☆ 新型インフルエンザ等感染症
新型インフルエンザ,再興型インフルエンザ
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このように、法律上、インフルエンザはとくに就業制限を受けていません。しかも、「労働基準法」で、有給で休みが認められているのは、唯一、年次有給休暇(年休)だけです(39条)。生理休暇・産前産後休暇等々、いずれも、法律上給与の支払いを義務づけるものではありません。つまり、法律上は、インフルエンザに限らずたとえ新型インフルエンザにかかって会社を休んだ場合でも、給与が保証されるものではないのです。
ただし、休職期間が長期にわたる場合には、その理由ごとに、雇用保険や健康保険・労災保険などから、各種の給付や一時金が出る仕組みが整備されています(たとえば出産手当金や育児休業給付金等々)。もしインフルエンザをこじらせて長期入院したなど特段の事情があるなら、健康保険の傷病手当金を申請することは可能です。協会けんぽに加入されているなら、連続して3日休んだうえに4日目以降の休んだ日に対して給与の一部が支給されます。もっともあなたの場合には、結局支給対象は1日分だけで、これを申請するための手間と費用(事業主・医師等の証明等)を考えれば現実的とはいえません。
まずは、ご自分の会社の就業規則をくわしくご確認ください。その中で、病欠の際の特別な規定がおかれている場合があります。インフルエンザについてとくに出勤制限やその際の給与支給に関する規定があれば、当然、それが適用されるわけです。
* * *
確かに、ご自分で希望されていないのに年休を消化されるのは納得いかないかもしれません。しかし、年休届を出さなければ、あなたとしては欠勤扱いとなって、その分の給与を差し引かれてもやむを得ないのです。上司の方は、あなたによかれと思っておっしゃったのではないでしょうか。

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