法のくすり箱
Q、私はある会社の株主です。同族会社なのですが、その経営の堅実さが気に入り、数年前に株を購入しました。ところが、一昨年、長男が先代に代わり社長になってから、たちまち経営状態が悪化しました。原因は、その長男の個人会社の赤字穴埋めに会社を利用していたというのです。取引の大半をその個人会社を迂回させ,合法的にマージンをかせぐといったきわめて悪質なものです。発覚に伴い長男は辞任し、次男が社長に就任したのですが、長男の個人会社との取引をやめただけで、長男の責任追及を一切しようとしません。それなら、我々株主が責任追及をとも思うのですが、勝訴しても賠償金は会社に入るだけですし、訴訟費用などの負担も重く、思案しています。このまま放置するしかないのでしょうか?
A、同族会社に限らず、取締役等の責任追及が問題になっても、馴れ合いなどにより責任追及しないということは、実はよくあることです。そこで、あなたがおっしゃるように、株主が会社の代わりに取締役等の責任を追及しようという「株主代表訴訟」が認められているのです(会社法847条1・3・5項)。
株主代表訴訟を行うにあたっては、持ち株数の要件はなく、6ヶ月前から引き続き株を有している株主であれば、たとえ1株であれ誰でも起こすことができます。なお、民法による消滅時効は損害が生じてから10年であるため、それよりも前の案件については責任追及はできません。
さて、肝心の費用の面ですが、結論から言うと、勝訴するか敗訴するかで株主の負担がまったく異なることになります。勝訴した場合、被告(長男)は会社に対し、与えた損害額を個人で賠償することになります。この場合、株主が賠償金を受け取ることはできませんが、会社に対し費用を請求することができます(会社法852条1項)。この費用には、弁護士報酬のほか、裁判に必要と認められる費用で訴訟費用を除いたもの(たとえば謄写費用や鑑定費用など)が含まれます。ちなみに、訴訟費用(印紙代・書記料・提出費用・出廷日当など)については、敗訴した被告が負担することになります。勝訴の見込みがあるなら、費用の負担に悩まされることなく、会社を糾弾すればいいと思います。
一方、敗訴した場合は、先の費用は一切が株主負担になります。もっとも、訴訟により会社に生じた損害については、損害が悪意であったときを除き賠償する責任までは負いません(会社法852条2項)。
かっては訴訟の印紙代も高額で、なかなか敷居の高かった株主代表訴訟ですが、平成5年「商法」が改正され、株主代表訴訟の訴額は非財産上の訴えとみなすことで印紙代も一挙に低額化し(平成21年現在は一律1万3000円)、訴訟の提起は非常に容易になりました。それだけに株主代表訴訟も活発化してきたのですが、その容易さゆえに、嫌がらせに近いような訴訟も乱発しているのも否めません。そのような場合、被告は原告(株主)が悪意であること(総会屋であるなど)を明らかにして、裁判所をとおして原告である株主に相当の担保提供を求めることができます(会社法847条7・8項)。
ちなみに、「地方自治法」の定める住民訴訟の制度には、この株主代表訴訟に共通する考えがみられます。住民が自治体に代わり不当利得の返還を実現するなどの訴訟をすることを認め、勝訴すれば自治体に弁護士費用の請求ができるとするものです(同法242条の2)。

ホームページへカエル
「法のくすり箱」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「入院でかさむ医療費…負担を軽くできないか?」)へ進む